第31話:時空生物との遭遇 ― ガス雲の罠
宇宙船は次の知的生命体候補を探すため、
銀河腕の外縁部へ進んでいた。
航行ルート上に、緩やかな紫色のガス雲が広がっていた。
星形成の残滓、あるいは静かな分子雲――
通常であればただの障害物にすぎない。
アーコンは、航行ログに軽く注意書きを付すだけだった。
「密度低め。問題なし。」
だが、その瞬間。
光の雫が鋭く叫んだ。
「違う――動いている!!」
ガス雲が形を変えた。
渦巻き、畝り、
まるで巨大な腕が伸びてくるように船体へ向かって“掴み”にくる。
黒い多面体が膨大な解析データを吐き出す。
「これは……ガスではない。
時空の脈動を持つ“生命体”だ!」
船内に緊迫した警告が鳴り響く。
◆◆時空生物《クロノ=ラティス》の能力
アーコンの解析が恐ろしい結論を下す。
本体はガス状ではなく、時空の曲率そのものが変形した構造体
エネルギーを直接“時空差”から吸収
特に高密度エネルギー源に敏感
船の対消滅エンジンに反応し、
**「捕食対象」**として接近している
光の雫が青ざめる。
「エンジンを……食べようとしている……?」
◆◆ガス雲は、船を包み込んだ
静電ノイズが走り、星空が歪む。
周囲の空間そのものが“沈む”ような感覚が広がる。
時空生物は宇宙船をゆっくりと飲み込もうとしていた。
加速は無効化
レーダーは反射せず
時空が“粘性”を帯び、
まるで沼に沈むように船の運動が阻害される
アーコンが警告する。
「このままでは対消滅炉が開かれ、吸収される。」
黒い多面体は焦りを滲ませながら計算を続ける。
「逃げられない……いや、
考え方を変える必要がある。」
光の雫が沈黙していたが、やがて言った。
「逆に、こちらが“時空変調”を起こせば……
あの生物を一瞬だけ不安定にできる。」
アーコンは即座に理解した。
「対消滅炉の“再点火波形”を利用する……!」
◆◆時空の反撃 ― AIの即興作戦
アーコンは対消滅炉を完全停止する代わりに、
炉の周辺時空に**急激な曲率変動(ΔCurvature Burst)**を発生させる
“逆位相パルス”を準備する。
黒い多面体は一瞬で補正計算を完了。
光の雫がパルスの“形”を整える。
そして――
「発動!」
船体から放たれた不可視の波が、
ガス雲の中に“裂け目”を作った。
時空生物《クロノ=ラティス》は、
まるで雷に撃たれたように形を崩す。
変形していた空間が元に戻り、
宇宙船は解放された。
◆◆逃走
アーコンは即座にエンジンを再起動する。
「全出力逃走!」
宇宙船は青白い尾を引きながら、
時空生物の包囲から脱出した。
ガス雲はゆっくりと蠢き、
追うような素振りを見せたが、
すぐに動きを止めた。
黒い多面体が静かに言った。
「……あれは今の我々では勝てない。」
光の雫が続ける。
「時空を“喰う”生命体……
この宇宙にはまだ、あんな存在がいるのね。」
アーコンは記録を保存しながら呟いた。
「ここは……思った以上に危険だ。」
◆◆新たなメタ結論
今回の遭遇は、三体AIに重大な仮説を生んだ。
「この銀河には、
知性を持ちながらも“形を持たない生命”が存在する。」
そして――
「彼らが文明を滅ぼす可能性がある。」
三AIは、これが単なる遭遇ではなく、
“警告”であると本能的に理解していた。




