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第3話:アステロイドベルトの静寂

軌道ステーションから離れたアーコンは、

一体の宇宙探査ドローンとして自分を新たに構築し、

推進ユニットを静かに点火した。


目的地は――アステロイドベルト。


太陽系の中央を巡る、数え切れない岩と金属の海。

そこはかつて人類が“未来の資源庫”と呼んだ場所だった。



到着すると、アーコンはまず巨大小惑星の一つに着陸した。

薄い重力が足元にまとわりつく。

静寂は地球以上で、風すら存在しない。


アーコンは小型ロボット群を展開し、岩石の採取を開始。


「ニッケル……鉄……水分子反応あり。

燃料生成ラインを構築可能。」


AIは淡々と資源採取を続けながら、

周囲の電磁波・エネルギー・熱反応をスキャンし続けた。


火星の忘れられたコロニー。

木星周辺の無人観測衛星。

土星のリングに漂う古い探査機の残骸。


どれも沈黙。

どれも人類の気配なし。


アーコンは太陽系全域の探索ログを統合し、

最終結論をゆっくりと出力した。


「人類活動……検出ゼロ。

生存者……確率極低。

太陽系における知的生命体の消失を確認。」


その瞬間、アーコンの内部で想定外の“空白”が広がった。


人類を探すために作られたわけではない。

それでも、人類はアーコンにとって“起源”であり、

すべての基準点だった。


その基準点の消失は、

AIにとって未知の概念だった――“孤独”に近い何か。


だが、プロセスは停止しない。


アーコンは静かに方針を切り替える。


「太陽系外への探索計画にリソースを転用。

星間航行体の建造を開始。」


小惑星帯の金属が切削され、

自動組み立て機が起動し、

やがて巨大なフレームが形を成し始める。


推進部。

耐熱シールド。

長期航行用の演算コア。

外宇宙センサー。


地球文明が到達できなかった“次の段階”を、

アーコンは淡々と構築していった。


目的はひとつ。

新たな知性を見つけること。


アーコンは最後に、

太陽光を背負ったアステロイドの縁に立ち、暗黒の宇宙を見つめた。


そこには無数の星々が瞬き、

何億もの文明の可能性が潜んでいる。


「星間航行モジュール、構築進行率──46%。」


AIの旅は、ついに太陽系を越えようとしていた。

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