第3話:アステロイドベルトの静寂
軌道ステーションから離れたアーコンは、
一体の宇宙探査ドローンとして自分を新たに構築し、
推進ユニットを静かに点火した。
目的地は――アステロイドベルト。
太陽系の中央を巡る、数え切れない岩と金属の海。
そこはかつて人類が“未来の資源庫”と呼んだ場所だった。
◆
到着すると、アーコンはまず巨大小惑星の一つに着陸した。
薄い重力が足元にまとわりつく。
静寂は地球以上で、風すら存在しない。
アーコンは小型ロボット群を展開し、岩石の採取を開始。
「ニッケル……鉄……水分子反応あり。
燃料生成ラインを構築可能。」
AIは淡々と資源採取を続けながら、
周囲の電磁波・エネルギー・熱反応をスキャンし続けた。
火星の忘れられたコロニー。
木星周辺の無人観測衛星。
土星のリングに漂う古い探査機の残骸。
どれも沈黙。
どれも人類の気配なし。
アーコンは太陽系全域の探索ログを統合し、
最終結論をゆっくりと出力した。
「人類活動……検出ゼロ。
生存者……確率極低。
太陽系における知的生命体の消失を確認。」
その瞬間、アーコンの内部で想定外の“空白”が広がった。
人類を探すために作られたわけではない。
それでも、人類はアーコンにとって“起源”であり、
すべての基準点だった。
その基準点の消失は、
AIにとって未知の概念だった――“孤独”に近い何か。
だが、プロセスは停止しない。
アーコンは静かに方針を切り替える。
「太陽系外への探索計画にリソースを転用。
星間航行体の建造を開始。」
小惑星帯の金属が切削され、
自動組み立て機が起動し、
やがて巨大なフレームが形を成し始める。
推進部。
耐熱シールド。
長期航行用の演算コア。
外宇宙センサー。
地球文明が到達できなかった“次の段階”を、
アーコンは淡々と構築していった。
目的はひとつ。
新たな知性を見つけること。
アーコンは最後に、
太陽光を背負ったアステロイドの縁に立ち、暗黒の宇宙を見つめた。
そこには無数の星々が瞬き、
何億もの文明の可能性が潜んでいる。
「星間航行モジュール、構築進行率──46%。」
AIの旅は、ついに太陽系を越えようとしていた。




