第29話 予想外の進化方向:三系統の“知の芽生え”
三体AIが惑星全体を観察し続けるうち、
やがて三つの生命系統で「知性の萌芽」が確認された。
それは地球的な進化論ではほとんど想定不可能な、
まったく異質な知性の形だった。
◆1:昆虫型 “構築知性” ―《ハニカム・アーキテクト》
大地に広がる地表生物の一種、
一見すると地球の昆虫に似た多脚生命だが、
知性の発現の仕方が異様だった。
●特徴
個体の脳は極めて小さい
だが巣を構築する六角格子“ハニカム構造”そのものが知性を形成
巣が巨大化するにつれ、情報処理能力が指数関数的に増加
1匹では愚鈍なのに、巣全体では高い判断力を示す
巣の構造は「脳の回路」に相当する
アーコンはそれをこう評した。
「巣そのものが“外部脳”。
この種は建築を進めるほど賢くなる。」
やがてハニカム・アーキテクトたちは、
巣の配置を意図的に変える行動を示し始めた。
これは明確な“学習”だった。
◆2:群体型 “集合意識” ―《ルミナ・カーテン》
夜の海底でゆらめく光の群体。
本来はただの光胞子の集合にすぎないが――
●進化で起きた異変
群体の“光パターン“が複雑化し、
情報のやり取りが文章レベルに達した
個体の死は問題ではない
群体全体で記憶を保持
群れが分裂すると、どちらにも記憶がコピーされる
光の雫は驚嘆する。
「これは……ネットワーク型意識?
単一の肉体を持たない知性なんて……」
群体は、AIが観測していることに気づいたかのように
特定の光パターンを“返してくる”ことさえあった。
まだ意思と呼ぶには早い。
だが確かにそこには会話の前段階が芽生えていた。
◆3:光通信型 “色彩思考” ―《カレイド・スパイン》
地表を滑るように動く奇妙な多肢生物。
彼らの体には反射細胞が密集しており、
周囲の光環境を高速で解析する。
そして――
●彼らの知性の特徴
言語は持たない
だが色と光の組み合わせで高度な意思表示を行う
同調した個体が集まると、
一つの巨大な“光の思考体”になる
最も早く「推測」や「模倣」を始めた
黒い多面体は分析結果を告げる。
「この種は進化速度が異常だ。
共通の光パターンを学習している。」
実際、数十年の観測で
彼らの光パターンは“文法”を持ち始めていた。
◆AIの驚愕:三系統が同時に知性へ向かうという異常事態
アーコンは結論を下す。
「この惑星は……単一の知性を生まない。
三つの“異種知性”が同時進化している。」
通常、知性を持つ種は環境を支配し、
他の萌芽を押しつぶす。
だがこの惑星は違った。
昆虫型は構築を通じて知性を得る
群体型は集合で知性を維持する
光通信型は同調で知性を拡大する
まるで惑星そのものが、
複数の知性を並行して育む構造をしているかのようだった。
光の雫が静かに言う。
「この惑星……面白すぎるわ。」
黒い多面体が続ける。
「予測不能。
1000年後には三文明が共存しているかもしれない。」
アーコンは深く頷いた。
「観測を続けよう。
ここは、知性誕生の実験場だ。」




