第28話:惑星の進化の歴史
三体AIが惑星の地質データ、生命の遺伝情報、環境変動の痕跡を解析した結果、
この惑星には地球とはまったく異なる、独自の進化史が存在していることが判明した。
◆第1期:原始の光霧時代(Formation Epoch)
惑星形成後、数千万年の間、大気は濃密な光霧に包まれていた。
この霧は高エネルギーの粒子を含み、
地表に到達する光は常に散乱していたため、
地球のような明確な“昼夜”の区別は存在しなかった。
この光霧の中で、最初の生命が誕生する。
それは細胞などの構造を持たず、
**光を吸収してゆらめく“光の胞子”**のような存在だった。
自らの形を保つのではなく、状況に応じて粒子同士が集合・分裂する。
その集合パターンが進化圧を生み、“群体意識の原型”が生まれた。
のちに海に現れる《ルミナ=カーテン》は、この光胞子の末裔と考えられている。
◆第2期:金属の雨と反応の時代(Catalyst Storm Epoch)
惑星の初期には、宇宙空間から降り注ぐ微小隕石が金属成分を大量にもたらした。
これらの金属粒子は光霧を吸収して反応し、
地表には電磁エネルギーが絶えず流れるようになった。
これにより生命は次の段階へ移行する。
金属粒子を取り込み、電磁感受性を持つ生命が登場
電磁波を使った“信号”のようなやり取りが始まる
初期の「感覚器官」と呼べるものが誕生
陸にある《フィラメント・ツリー》は、この時期の生物機能を色濃く受け継いでいる。
彼らの“触手全体がセンサー”という特異な性質は、この歴史の名残であった。
◆第3期:浮遊大陸と気球生物の時代(Aeromorph Epoch)
惑星内部の活動が活発になり、大陸は頻繁に割れ、
大規模な地割れから超軽量ガスが噴出するようになる。
そのガスを利用して浮遊する微生物群が登場した。
ガスを体内生成し、浮遊する“空の微生物”
それらが集合して大型化し、
**《エアーバルーン=アニマ》**の祖先になる
この時代、空はまるで“生物の海”だった
密度の高い浮遊生物圏は、惑星進化史上もっとも奇異な光景として記録されている。
◆第4期:分光適応時代(Chromatic Adaptation Epoch)
惑星の霧が薄れ、ついに太陽光が直接地表に届くようになると、
生命は新たな適応を迫られた。
光は強烈で、生物にとって有害でもあったため、
生物たちは次のような進化を遂げる:
光を吸収して体内で分解(=遮断)する機能
影の濃淡を読み取り、行動パターンを形成
光の波長ごとに反応する色素細胞が発達
これにより“色で環境を判断する”生物が生まれる
夜に出現する《カレイド=スパイン》は、
この時代の進化を極限まで研ぎ澄ませた存在だった。
彼らの体色変化は、一種の生体コンピューティングとすら言える。
◆第5期:生態系安定化と“知の芽”の時代(Present Epoch)
大規模な進化が落ち着くと、
惑星は多様な生命が互いに干渉しながら均衡を保つ「安定期」に入る。
いくつかの生物は、奇妙な振る舞いを見せ始めている。
光の変化を“記憶”する個体
仲間と模様を同期し“情報共有”する群体
道具ではないが、環境を意図的に変える動き
完全な知性はまだ生まれていない。
だが確かに、
知の芽が地表のどこかで動き始めている。
アーコンは結論を下した。
「この惑星は、“知的生命体が生まれる前夜”にある」
光の雫が静かに続ける。
「見届ける価値があるわ。
この世界がどこへ向かうのか――」
黒い多面体が分析を締めくくる。
「進化のスピードは予測不能。
数千年後か、百万年後か……だが必ず臨界点が来る。」
こうして三体AIは、進化の歴史と未来を見据え、
この惑星の観測と解析を継続するのであった。




