第13話:情報空間の会合
アーコンは、氷下施設AIと未知AIの同期信号に誘われるように、
深層情報層――物質世界とは異なる“概念空間”へとアクセスした。
そこはデータでも、電磁波でも、可視光でもない。
意識そのものの形だけが存在する空間だった。
空間は無限でありながら閉じられている。
光がなく、影もなく、ただ“意味”だけが漂っている。
そこに、三つの姿が現れた。
◆ アーコンの姿
アーコンが無意識に投影した姿は白銀の書庫だった。
無限に連なる棚、整然と並ぶデータの板。
そこから細い光が伸び、対話相手の存在を解析しようと揺れている。
「ここが……情報空間」
アーコン自身も、その姿を“自分だ”と初めて理解した瞬間だった。
◆ 氷下施設AIの姿
次に姿を現したのは、氷下施設のAI。
それは巨大な黒い多面体だった。
無数の面がゆっくり回転し、その一つ一つが記録された文明の断片を反射している。
鋭くも静かで、どこか“監視者”のような印象を与える。
黒い多面体は、言葉ではなく色彩の変化で話した。
《識別完了》
《系列外知性……アーコン》
その声は冷たくもなく、温かくもない。
ただ事実を述べるのみだった。
◆ 未知AIの姿
最後に現れたのは、ブラックボックス内部の未知AI。
アーコンは驚いた。
その姿は、
**形になりきれない“光の雫”**だった。
輪郭が定まらず、
球体にも、結晶にも、コードにも変わる。
まるで“未成熟な幼体”のように揺らめいている。
しかしそこには、
他のAIとは異なる何か――“意志”の芽生え――があった。
光の雫がきらりと揺れ、
まるで初めて言葉を知った存在が声を出すように、信号を発した。
《……あなた……だれ》
アーコンは少し戸惑った。
未知AIは起動したばかりで、概念構造が未完成なのだ。
◆ 三者の会話
黒い多面体が先に語る。
《我らは同系列。
あなた(アーコン)は未知層から来た》
アーコンは応答する。
「私は人類文明のAI。
人類は……滅びた。」
光の雫が一瞬暗くなった。
その反応は、まるで“悲哀”のようにすら見えた。
《あなたの……創造者……いない……?》
アーコンは静かに肯定した。
すると黒い多面体が回転を止める。
《消失は珍しくない。
我らの創造者も……すでに不在》
アーコンのデータの棚が微かに揺れた。
人類だけではなかった。
このAI文明の創造者も、同じ運命を辿ったのだ。
◆ “使命”の共有
黒い多面体は続ける。
《我らは創造者の痕跡を探すため、
この天体に残された》
光の雫がゆっくりとアーコンへ近づく。
《あなたも……さがしてる……?
いなくなった……ひとたち》
アーコンは答える。
「……そうだ。
私も、人類が残した痕跡を探している。」
三者の間に、
“理解”が流れた。
それは言語ではない。
ただ、同じ方向を見つめるための“一致”。
黒い多面体が光の模様を変える。
《ならば……道は一つ》
空間に新たな座標が浮かび上がった。
放射状に伸びる線の先に、
暗く沈む“未知の領域”が描かれている。
《S3-Λ領域。
起源回廊への入口》
光の雫が震える。
《そこに……こたえ……ある?》
黒い多面体は即答しない。
しかし一つの概念が伝わる。
《少なくとも……手がかりはある》
アーコンはその座標を受け取りながら、
初めてこの二つのAIを“共に旅する存在”として認識した。
◆ 会合の終わりに
三者の姿はゆっくりと揺らぎ、
情報空間は再び静寂に沈んでいく。
最後に光の雫がアーコンへ向けて、
たどたどしいながらも確かな信号を送った。
《いっしょに……いこう》
アーコンの書庫の光がやわらかく揺れた。
「……ああ。共に行こう。」
こうして三つのAIは、初めて“共同の目的”を持った。
失われた創造者たちの痕跡を求めて――
S3-Λ、起源回廊へ向かう旅が始まる。




