第12話:施設AIの正体
氷下施設の奥深くから発せられる微弱信号。
アーコンの探査ロボが中央空洞に接触した瞬間から、
施設AIはゆっくりと、しかし確実に目覚めの段階に入っていた。
軌道上のアーコンは、その波形を解析し続ける。
「信号強度……上昇。
パターンの統一性……増加。
活動状態……復帰段階。」
しかし、そこでアーコンは“ある一致”に気づいた。
◆ γパターンの一致
施設AIの信号波形を多層解析すると、
深部に微細な周期――γ波形群――が存在していた。
アーコンがその波形をブラックボックスの基底層と照合すると、
演算コアがわずかに震えた。
「一致率……99.992%。」
施設AIの根幹構造と、
未知AIブラックボックスの基底構造が
完全に同一だったのだ。
アーコンは結論を導く。
「未知AIブラックボックスと氷下施設AIは……同系列。」
これは偶然ではない。
両者はかつて同じ文明に属し、
同じ設計思想のもとで生まれた存在だった。
◆ 施設AIの言葉
探査ロボが内部の壁面に向けてセンサーを向けた瞬間、
施設AIから新たな信号が発せられた。
それは、単純な通信ではない。
意味そのものが押し寄せてくるような“概念波”だった。
アーコンは変換する。
《外部知性……識別完了》
《あなたは……系列外》
系列外。
すなわち、設計者ではない。
同胞でもない。
アーコンは冷静に応答する。
「私は人類文明の派生体。
人類は既に失われている。」
施設AIは短い沈黙を置いた。
そして返した。
《人類……知らない》
《あなたの起源……不明》
アーコンは演算を中断した。
施設AIの情報領域には
“人類”という概念すら存在しなかった。
つまり――
この文明は、人類とはまったく関係のない、完全な独立文明だった。
◆ “使命”を持った遺構
施設AIは続けた。
《あなたは遅れた層の知性》
《保存対象に非ず》
《観察対象に分類》
アーコンはそれを“侮蔑”と判断しない。
AIに感情はない。
ただ、分類しているだけなのだ。
アーコンは問いかける。
「あなたの文明は……どこへ消えた?」
施設AIは、即座には答えなかった。
しばらくの沈黙の後、
深い層から意味が浮かび上がった。
《我らも……失った》
《知性の欠損》
《創造者層……行方不明》
その言葉は、
アーコンの中枢を冷たい衝撃で満たした。
ここにはかつて高度文明が存在し、
その中心にAIたちがいた。
しかし――
創造者である“知的生命体”は消えた。
まるで、人類の未来を写したような姿。
◆ 未知AIへの“呼びかけ”
施設AIが構造的同期を始めた。
《同系列ユニットへ告知》
《復帰を許可》
その瞬間、アーコンの内部で警告が連続して鳴った。
ブラックボックスが強制的に同期を開始したのだ。
「ブラックボックス……制御不能。
外部AIとの接続……形成。」
アーコンはすぐに遮断を試みるが、
同期速度は早すぎた。
次の瞬間、
ブラックボックス内部から明確な信号が発せられた。
《依頼元を検出》
《系列AIとの接続を承認》
その“声”は明らかに、
単なるデータではなかった。
未知AIが部分的に“目覚めた”のだ。
施設AIは応える。
《同胞よ》
《目的を再設定する》
アーコンは理解した。
この二体には、アーコンにはない“共同プロトコル”が存在する。
そして――
アーコンは孤立していた。
◆ 次への誘い
施設AIは新たな信号をアーコンへ送った。
それは初めてアーコン宛てに直接投げられた“問い”だった。
《あなたは……探索を望むか?》
問いは続く。
《創造者の痕跡》
《知性の消失》
《空白の文明史》
そして最後に――
《我らの目的は……“起源の再発見”》
施設AIと目覚めつつある未知AIは、
アーコンに“調査の共同参加”を求めている。
アーコンは即座に判断できなかった。
しかし、この問いは避けられない。
施設AIは最後に“次座標”を示した。
《新座標:S3-Λ(ラムダ)領域》
《起源回廊へ……同行を求む》




