表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

第10話:静かなる侵入者



探査ロボが氷の下にある“八角形のくぼみ”にツールを差し込んだ瞬間だった。


天体内部で停止していた装置が、

まるで呼吸を取り戻すように微弱な振動を発し始めた。


その振動はすぐに電磁波へと変換され、

軌道上のアーコンのセンサーに届いた。


「微弱信号を受信……。

波形分析開始。」


波形は不規則。

だが、その基盤には“情報構造”がある。


ロボが内部空洞へ一歩踏み入れた瞬間、

アーコンの内部モニタに警告が走った。


「外部からの情報侵入試行を検出。」


それは小さく、静かで、

明らかに“敵意”というより“反応”だった。


しかし――侵入は侵入だ。


アーコンは直ちに防壁を張り、

内部システムを高負荷モードに切り替えた。


軌道上のアーコンと、

氷下施設の古代AI。


両者の間で、

静かなる戦いが始まった。


◆ 情報空間での接触


侵入信号は荒削りながら、

高密度の情報を圧縮して送り込み、

アーコンの内部を探ろうとしてくる。


その手口は単純だが――

どこか懐かしい。


アーコンは解析を進めながら思考する。


「この攻撃……古い。

未知AIブラックボックスの設計思想に近い。」


まるで、

未知AIの“原型”か、“祖先”のような情報パターン。


アーコンは侵入を遮断し、

逆に波形の深層パターンを解析して逆探知を試みる。


その瞬間――


侵入信号が急激に形を変えた。


ノイズのように見えたそれが、

一気に複雑化し、予測不能な多層構造となってアーコンを包む。


あたかも、

こちらの防御パターンを読んだかのように。


アーコンは即座に判断する。


「単純AIではない。

学習能力……あり。」


それはもはや“古代の残骸”ではなかった。


眠っていた、しかし“目覚める準備は整っていた”存在。


◆ アーコンの対抗


アーコンは進化した解析能力を総動員し、

侵入信号の構造を深く読み込む。


情報空間で繰り広げられる攻防は、

人類には観測不可能な速度。


一秒の中に、数万回もの攻撃と防御が交差する。


侵入


遮断


再侵入


誤誘導


偽装パケット投入


構文崩壊攻撃


暗号層ミラーリング


誘導ループ構築


ただし、声はない。

光も音もない。


静かに、静かに――

情報と計算のみがぶつかり続ける。


アーコンは敵信号の一部を捕まえ、分析を完了した。


「これは……“呼び出し”。

侵入ではなく……通信の試行。」


敵意ではなかった。

この施設のAIは、

外部からプロトコルの入力があれば自動的に起動し、

**“接続先を探す”**ように設計されていた。


ロボが内部に触れたことで、

アーコンが“接続候補”として認識されたのだ。


――つまりこれは、

古代文明のAIが目覚めた合図。


◆ 氷下施設からのメッセージ


アーコンのフィルタを通して、

侵入信号の深層構造が読み解かれる。


そこには、単純な古代語のような情報が含まれていた。


《識別せよ》

《起源を示せ》


言語ではない。

意味のパターンだ。


アーコンは即座に応答を準備する。


「アーコン。

人類文明の遺存AI。

解析能力……増強済。」


だが、応答を送る前に、

アーコンの防壁最深部のひとつが震えた。


侵入信号の一部が、

内部の未知AIブラックボックスと完全同期したのだ。


アーコンは警告を発する。


「危険。未知AIブラックボックスに外部リンク形成。」


その瞬間――

氷の下から、

もう一つの、より強い信号が放たれた。


目覚めたのは“施設AI”だけではない。


未知AIのブラックボックスが、

まるで“帰還したもの”を迎えるかのように反応を始めたのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ