episode4「ヒトのようなトカゲ」
――砂の上に、静かな風が吹いていた。
クロムが目を覚ますと、船は砂の海に沈みかけていた。
焦げた匂いはない。爆発もしていない。
ただ、仲間たちの姿だけが消えていた。
「……置いていかれたのね」
クロムは呟き、空を見上げた。
二つの太陽が、音もなく燃えている。
「クロムー!おーい!生きてる!?」
明るい声とともに、砂を蹴り上げながらアーニャが走ってくる。
亜麻色の髪が太陽を跳ね返し、笑顔が風の中に溶けた。
「……元気だね」
「そう!心配して走ってきたの〜!」
「ありがとう。でももう平気」
「よかったぁ!でも、これ完全に置いてかれたよね?」
「そうね。もう任務にいっとかな。」
クロムの言葉は冷たいが、声のトーンは穏やかだった。
「……でも、アーニャが一緒で助かった」
「へへっ、そう言われると悪い気しないね」
⸻
砂漠の旅が始まった。
風が骨のように乾き、足跡を消していく。
アーニャはポーチから飴を取り出した。
「ほら、クロムにもあげる。疲れた時は糖分!」
「ありがとう。」
「甘いのはしあわせの味だよ!」
アーニャが笑った瞬間――
シュッ、と影が横切った。
飴玉がひとつ、ふわりと浮かび上がる。
「……今、なにか動いた?」
「え!? 飴が、ない!?」
そこにいたのは、白い小さなトカゲ。
金色の瞳がくるくると動き、
口の中で飴玉を転がして「カリッ」と噛んだ。
「ちょ、かわいすぎでしょ!? 返して〜!!」
「アーニャ、落ち着いて」
「無理っ!!あんなにキラキラした目で盗むなんて反則!」
トカゲはぴこぴこと尾を振り、
まるで「捕まえてごらん」と言うように走り出した。
⸻
二人は夢中で追いかけた。
トカゲはくるくると回りながら、振り向いて舌を出す。
砂を蹴る音が響き、太陽が背中を焼いた。
「待ちなさーい!」
「こっちだよ!」
アーニャが笑う。クロムも、わずかに口元を緩めた。
その瞬間だった。
――ザザザザザッ!!!
地面が崩れた。
砂が流れ出し、重力が狂う。
アーニャの足が沈む。クロムが手を伸ばす。
「アーニャ!」
「クロムっ、やばいっ――!!」
世界が傾く。
風が唸り、視界が反転する。
砂が息を奪い、心臓の音だけが聞こえた。
クロムがアーニャの手を掴む。
砂に飲まれながらも、必死にその手を離さない。
「離さないで!」
「離さない!」
トカゲが頭の上を通り過ぎ、尻尾でクロムの指に絡みついた。
「お前もかよ……!」
そして――世界が落ちた。
⸻
……音が戻る。
クロムがゆっくり目を開けると、
そこには光に満ちた街が広がっていた。
空の代わりに砂が揺れている。
光が透けて降り注ぎ、金色の粒が漂う。
古い建物と、どこか懐かしい匂い。
「……街?」
「わぁ……きれい……! 下に街があるなんて!」
アーニャが息を呑む。
腕の中で、さっきのトカゲがくすぐったそうに笑っていた。
「生きてたのね」
「ねぇクロム、見てこの子……笑ってるよ」
トカゲはアーニャの手に体をすり寄せ、
“ありがとう”と言うように鳴いた。
⸻
二人が街を歩くと、人々がいた。
露店でパンを売る老人、子どもたち、笑顔の女。
けれど、どこか奇妙だ。
追いかけて走るクロムとアーニャを、
彼らは止めもせず、ただ笑って見ている。
まるで、舞台の外から観客が見ているように。
「ねぇ、なんか……変じゃない?」
「ねー!誰も助けてくれないね!!」
その時だった。
トカゲが尾を立て、ピョンと跳ねて路地へ逃げた。
「まってー!飴返してってばー!」
アーニャが走り、クロムがそのあとを追う。
狭い路地の奥、
クロムの腰のポーチがふっと軽くなった。
振り向くと、少女が立っていた。
ボロの服、水色の髪。
瞳だけが、この街の誰よりも強く、
“生きていた”。
ブクマ、コメント一言でももらえると、クロムもアーニャもよろこびます!
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