ヘルレーネス領 ②
第4話 人助けの代償
「…か?!」
体が揺すられる感覚がし、優はゆっくり瞼を上げた。
そして、自分が手足を縛られ床に転がされてることに気がついた。
「あの…大丈夫ですか?」
その声に視線を向けると、優と同じように手足を縛られたメガネの青年か座っていた。
「よかったぁ。大丈夫ですか?」
「あなたは…食堂の」
「はい。ルイ・アノバスと言います。気軽にルイって呼んでください」
ルイは優に、ニコッと微笑みかけた。
「えっと、月島 優です」
「ツキシマユウ。この辺りでは聞かない感じの名前ですね。どこから来たんですか?」
「東京から」
「トウ…キョウ?」
「?」といった表情を浮かべルイは首を傾げた。
「すみません、聞いたことない場所で。どこにあるんてすか?」
「えっと…日本です」
「ニ…ホン?」
ルイを見た優は嫌な考えが浮かび、苦い顔をした時、扉が開き食堂でルイをいじめていた青年と数人のその取り巻きであろう青年たちが入ってくる。
「よぉ。さっきはよくも恥をかかしてくれたな!」
「ふん。1人じゃ勝てないから今度は仲間引き連れてきたんだ。うわぁ、だっさぁ」
優は馬鹿にしたように片頬を上げた。
「んだと!」
イラっとした表情を浮かべ青年は足を振り上げる。
目を見開き優は蹴りを体を捩り顔面からは避けたが、避けきれず脇腹に喰らい痛みで小さく呻く。
「おいおい、避けるなよ。捕まえとけ」
優は取り巻きの青年に両手を捕まれ、座らされた。
睨みつける優の顔面に青年のパンチがめり込んだ。
顔面に衝撃があり、くらりと視界が揺れ火花が散った。
キツと優は青年を睨む。
「あぁ?んだその目は」
2発3発と拳が飛び、口の中が鉄臭くなる。倒れ込んだ優にすぐに4発5発と拳が飛び横から別の誰かの蹴りが飛んでくる。
「おい、アノバス」
青年に名前を呼ばれたルイはギクリと肩を震わす。
「これであいつを刺せ。そしたら、もう手を出さないって約束してやる」
青年はニヤリと笑うとスタスタと歩み寄ると、短剣を差し出した。
「えっ…そんな…」
オドオドしているルイに青年の目がますます釣り上がる。
「できねぇのか?もっと痛い目みたいのか」
「でも、ナタさん。こいつが次のコインだったら、ただじゃすみませんよ」
取り巻きの青年がおずおずと言うと、ナタは青年の胸ぐらを掴んだ。
「うるせぇ!俺の癪の虫がおさまらねぇんだよ!」
取り巻きを突き飛ばしナタはルイを睨み
「早くしろよ!できねぇなら手伝ってやる。おい、立たせろ」
取り巻きの青年2人は優の腕を掴み立たせた。
ナタはルイの腕を掴むとニヤリと笑う。
「刺すのはなぁこーやるんだよ」
ルイの腕を掴みナタは優の腹に突き立てた。
腹に火のような疼痛が走る。引き抜かれた傷口から血が溢れ優はその場に崩れ落ちる。
「ふん。お前が刺したわけじゃないからな。まぁこれからもよろしく頼むわ」
ナタはそう吐き捨てると、取り巻きを連れて部屋をあとにしていく。
「ツキシマユウさん!」
ルイは駆け寄ると優を見た。
「フル…ネーム」
優は苦笑いをする。
「えっと、優で…いい…ですよ。あの…ドア…」
「あっ!」
ルイはハッとするとドアまで行き開けようとするが、開かないのか何回か体当たりして戻ってくると首を横に振った。
「たぶん、何かで塞がれてて開けられないです」
「私が呼びに行こう」
ふわりと現れた風紀に風が渦巻き小さな白い兎に変わった。
兎はピョンピョンとドアに近づくと、スっとすり抜け消えていった。
「今の兎…」
(あれ、見えるんだ)
唖然とした顔で兎が消えたドアをルイは見ていた。
(説明したほうが…いいかな)
どう説明するか考えるが、瞼がまるで石のように重く感じ優はゆっくり目を閉じる。そのままストンと意識が暗闇に落ちた。
真っ暗な空間をまるでふわりふわり海を漂うクラゲのように優は漂っていた。
「……!」
どこからか声がする。
1人2人でなくたくさんの…。
「優!」
鈴奈の泣きそうな叫び声で優はゆっくり瞼を上げる。
溢れそうなほどの涙を目に湛え優を見下ろしている鈴奈の姿が目に入り、優は指で鈴奈の涙を拭った。
「よかった…ホントによかった…」
涙をポロポロ零しながら呟くと鈴奈は優の手をとった。
「とりあえず、まだノアさんの応急処置で傷を塞いだだけだから。ちゃんとした治療をしに医務室まで行くぞ。ノアさんも。少し休ませてもらえ」
ラゾートはホッとした表情をし、青白い顔で肩で息をしながら微笑むロアークを見る。
「いや、俺は寝たら治るから。その子を優先して」
「ダメですよ。ちゃんと休んでください。行きますよ」
ラゾートはヒョイと優をお姫様抱っこする。
「重い…ですよ」
優が言うとラゾートはニヤッと笑う。
「なに、遠征用の荷物に比べたら軽い軽い。そっちのメガネの青年ともう1人の兄ちゃんはノアさんに肩貸してやってくれ。長い黒髪の姉ちゃんは俺たちと来な。他の3人は部屋に戻って休みな。今日も早いぞ。アノバス、お前が部屋まで送ってやれ」
「承知しました!」
ポンポンと的確に指示をしラゾートは敬礼するルイにニヤリと笑みを浮かべる。
「よーし。んじゃ行くぞ」
優は医務室に向かいながら、ラゾートから自分が一時命が危なかったこと、この辺りでは見ない白い兎が部屋まで案内したことを知った。
「まぁ、あいつらはとっちめといてやるからゆっくり休め」
「ありがとうございます」
優はスーッと目を閉じた。