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保険室からはじまる異世界転記  作者: 早暁の空
第2章 風のゆくえ
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ロアケニート ⑥

第36話 静寂の村と鍵


「ここ……私たちが、あの時連れてこられた村じゃない?」


紗綾香の言葉に、全員の足が止まる。

視線の先には、老人に生贄として差し出されかけた、あの薄暗い村が広がっていた。

湿気を含んだ空気が、あの時の恐怖まで呼び起こすようだった。


「なるほど。ここで術を掛けられてたから、月島先輩は僕たち襲ったんですね」

「だと思う。……よし、探そう」


鈴奈の短い一言に、5人は静かに頷いた。

そして、木の影に身を寄せ、葉の隙間からそっと覗き込む。

すると、村の通りを、数人の村人がカンテラを掲げながらゆっくりと歩いていた。

ぼんやりと動くのを確認しつつ、5人は家の壁に沿って身を低くし、気配を消しながら池の方角へと移動した。

その時。


「……ん?」

 

村人のひとりがふいに足を止め、こちらへ顔を向けた。

カンテラの橙色の光がゆらりと揺れ、5人の隠れている影へと近づいてくる。


「っ!」


誰もが息を呑み、動けなくなる。

光が、壁の影をじわりと舐めるように迫ってきた、その瞬間。


「ニ……ニャアァァ。」


間延びした猫の鳴き声が、木の上から響きわたった。


「ん?猫か?」

「あれだろ。ローサーさんとこの」

「あぁー。また逃げ出したんかい。仕方ないなぁ」


そんな話をしながら村人たちは再び巡回へ戻っていく。


その背中が完全に遠ざかったのを確認してから、5人はようやく小さく息を吐いた。


「……助かったぁ……」

「猫ちゃんナイス……!」


ホッと息をこぼした鈴奈の言葉に、沙綾香もそっと続けた。


「ここでジッとしてても仕方ない。行こうぜ」


5人は互いに目を見交わし、小さく頷くと、再び池へ向かって静かに進み出した。


池が見える位置まで来ると、朽ちかけた小屋がぽつんと佇んでいた。


「本当にあったよ……」

「なに、信じてなかったの?」


拗ねたように口をつぼめて見せる鈴奈に茜は困ったように頭に手を置いた。


「いや、そーゆーわけじゃねぇけどさ」


ごにょごにょと言い淀む茜に鈴奈はクスリと笑う。


「大丈夫。わかってるから。さっ、行くよ」


そう言いながら鈴奈は取っ手を握りしめ、力を込めて引いた。

だが扉は“ガタン”と鈍い音を響かせただけで、びくともしなかった。


「鍵がかかってる……」


鈴奈は戸惑った表情で振り向いた。

 

「えぇー。鍵どこにあんだ?」


蓮が顔を顰めたその時、ひょいひょいと誰かが蓮の服の袖を引いた。

ビクリと肩を震わせ、視線を落とすとそこにはオレンジに近い茶髪の女の子が蓮を見上げていた。


「鍵は村長さんの家にあるよ」

「本当か?」

「ん?どーしたの馬場くん」


蓮は声をかけた鈴奈に視線を向けた。


「いや、この子が……?!」


再び、視線を落とした先にすでに女の子の姿はなかった。

慌てて当たりを見渡すが、そこには静まり返った家々が並んでいた。


「なに、どーしたの?」

「あ……いや。今、ここに女の子いなかったか?」

「えっ?」


蓮の言葉に驚いた表情で蓮に視線を向けた。


「あー……やー……何でもねぇ!村長のとこに鍵あるらしいぞ」

「何で君がわかるんだい?」


疑うような奏の視線に「あぁ!」と小さく言うと蓮は頭をガジガジと掻き回す。


「言っても信じねーだろーが!」

「シー!」


思わずこ声が大きくなった蓮に沙綾香、茜、鈴奈は慌てて唇に指を当てて見せる。


「……さっきまでここにいた女の子が言ってたんだよ。」

「村の子かしら?」


そう言い沙綾香は首を傾げた。


「だとしたら罠の可能性もあるぞ」

「ですね。ここは何かあった時に助けられるように二手に分かれたほうがいいと思います」


奏の言葉に全員が頭を小さく縦に振った。


「どー分かれる?」

「1人ずつ何かあった時用に魔法が使える人がいて欲しいよな」


蓮は頭をがしがしとかきながら、周囲を見渡した。


「じゃあ、私は屋根の上に行こうかな」


軽く手を挙げた沙綾香は、小屋の屋根を見上げる。


「上からなら村全体を見渡せるし、何か来てもすぐ合図できるからね」


沙綾香はニコリと笑みを浮かべる。


「じゃあ、俺が下にいる。湯島先輩ののサポートをします」

「んじゃ、残りの三人は村長の家だな」


顔を上げると、茜も蓮も鈴奈も静かに頷いた。


「それじゃ、行きましょう」

 

奏は小さく息を吐き、三人の歩調を合わせる。


「気をつけてね」

 

沙綾香が屋根の上からひらひらと手を振った。

 

「なんかあったらこれで連絡して」


そう言い鈴奈は耳しているイヤリングに触れ、向き直ると茜たちの方へ走って行った。


三人は池のそばの小高い場所に建つ村長の家へと歩み寄った。

わずかに開いたその家の中は、まるで時間が止まったかのように静まり返っていた。


「どーやって入ります?」


蓮の言葉に耳を傾けつつ、茜がそっと窓辺へ近づき中を覗いた瞬間、

その顔がみるみる強張った。


「……おい」


茜は短く声をかけると、戸惑いを隠せない様子で室内を指し示した。

鈴奈と蓮は顔を見合わせ、そっと中を覗き込み思わず息を呑んだ。


「どうしたの?」


心配そうな沙綾香の声が耳そばからした。


「中の……人たちが倒れてる」

「「えっ?」」


鈴奈の呟きに奏と沙綾香の驚いた声が戻ってくる。


「どうする?」


蓮は2人を見た。


「鍵は手にしないと。行こう」


鈴奈はそう言うと家の中に入った。


家の中では、村長をはじめ、働いていた人たちまでもが皆、意識を失って倒れていた。


薄暗い室内に足を踏み入れた鈴奈は、息をのんだまま周囲を見回した。静まり返った空間には、人々の浅い寝息だけがかすかに漂っている。転がった椅子、落ちた書類……そのなかで、ふと視線の先に、テーブルの上だけが妙に整っていることに気づいた。


そこには、金属が淡く光を返す“鍵の束”が置かれていた。


「ねぇこれ」


鈴奈は慎重に近づき、音を立てないように鍵を手に取る。

その時、倒れていた人の「うっ」という呻き声が聞こえた。


「そんだけありゃどれか当てはまるだろ。早くズラかるぞ」


蓮の言葉に、3人は慌てて家を飛び出し、池の小屋へ向かって走り出した。

小屋が見えてくる頃、薄暗い陰から奏が歩み出て落ち着いた表情のまま、3人を確認して小さく頷く。

 

「お疲れ様です。こちらは異常なしです」

「こっちは大ありだよ」


困ったように茜は言うと顔を顰めた。


「村長の家の人がみんな倒れてたのよね?」


まだ屋根にいる沙綾香の声がイヤリングからする。


「そー。あっ、沙綾香もうおりてきていいよ」


鈴奈はイヤリングに向かって言うと全員を見る。


「不安だけど、上手く転んでるから、今は深くは考えないで、やることをやろう」


鈴奈の言葉に全員が頷いた。

そして鈴奈は手の中の鍵束を見つめ、そっと一歩前へ出ると、錆びた鍵穴にそっと鍵を差し込む。しかし

カチッ……カチ、カチッ。

うまく噛み合わない。

鍵は入っているはずなのに、回る気配がまるでない。


「え……ちょっと待って……」


焦りがじわじわと背中を這い上がる中、次から次と試していく。しかし、どれも開く気配がない。鈴奈は最後に一度だけ深く息を吸い込んだ。


そしてゆっくりと力を込める。


……ガチリ。


ようやく、鍵が重たくロックを外す音を響かせた。

開いたことに驚き仲間に目配せをする。全員が頷くと鈴奈は扉を開けた。

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