ロアケニート ⑤
第35話 森と光
薄い朝靄が残る城門前で、5人は静かに立ち止まった。凛とした朝の空気が満ちる中、街はまだ眠りの気配をそこかしこに残していた。
門番に軽く会釈すると、大きな鉄の門がゆっくりと開き、冷たい外気が流れ込んできた。
「……行こう」
鈴奈の短い言葉に、全員が小さく頷いた。力強く城から一歩踏み出す。
城を出てすぐの坂道を下ると、朝市の立つ広場にたどり着いた。まだ活気は薄いが、露店の人々が慌ただしく台を出し、荷車を整えている。
「まずは薬草と水袋、足りない分を揃えないとね」
沙綾香が手早く指示を出し、五人は散開して必要な物を選んでいく。
鈴奈は保存食と水袋をいくつか抱え、銀貨を渡す。
「……優、ちゃんと食べられるといいけど」
小さくつぶやく鈴奈の声は震えていた。
ポンと隣にいた蓮は表情を固くしながら鈴奈の肩を叩いた。
その時、隣で品物を受け取っていた茜が言った。
「なぁ、鈴奈。あいつらに顔がバレないように……何か変装みたいのってできねぇか?」
「変装……?」
その言葉に全員が顔を見合わせた。
「それなら仮面とか、フード付きの服とか……隠せる物があれば」
奏の意見に沙綾香はほんのり少し首を傾げる。
「服屋さんとか、行けばあるかもしれないわね」
「あ、あそこに服屋があるよ」
沙綾香の言葉を受けてすぐ、鈴奈が指差した先には、朝早くから軒を開いた小さな布屋があった。
「行ってみようぜ」
茜の一言で5人は店に足を向かわせる。
店に入ると、布の匂いがふわりと立ち上る。店主が眠そうにあくびをしながら顔を上げた。
「いらっしゃい。何をお探しで?」
「目立たない服と……顔を隠せる仮面とかありますか?」
鈴奈が即答すると、店主は意外そうに眉を上げたが、それ以上は聞かず棚を探し始めた。
数分後、台の上に並べられたのは、灰色のフード付き外套と木でできた白い簡素で目元だけが開いた無地の仮面が五つ出てきた。
「……これいいな」
「つけるだけで印象が大きく変わりますね」
茜が仮面を取ると奏が横から興味深そうに覗き込む。
「これなら誰が誰だか分からないね」
その横で沙綾香が外套を羽織り、クルクルと回る。
「動きやすさも悪くねぇな」
腕の可動範囲を確かめ蓮も満足気に微笑む。
「鈴奈、これでいい?」
沙綾香が問いかけた言葉に、鈴奈は迷いを見せずに頷いて返した。
「うん。いいと思う」
そう言うと、鈴奈は店長に向き直る。
「すみません、これください」
「まいどあり」
五人は外套を身にまとい、仮面を腰袋にしまう。代金を支払い終えると、どこか引き締まった面持ちで、再び朝の通りへと踏み出した。
「これで必要な物は揃いましたね」
「だね。あとは夜を待つだけだね」
奏の言葉に鈴奈は頷く。
「なら、チャッチャと宿探そうぜ」
「宿についたらこの仮面にちょっと細工していいか?さすがに白は闇夜だと目立つ」
茜は仮面を取り出しまじまじと見つめた。
「いいわね!なら、鼻筋のところにみんな別の色も入れましょうよ」
「あら、オシャレじゃない」
沙綾香はニコニコと笑みを浮かべる。
「オシャレって……それじゃぁ逆に目立たなかいか?」
顔を顰め助けを求めるように茜は鈴奈を見る。
ご機嫌に鼻歌を歌いながら歩く沙綾香の背中を見て、鈴奈は思わず苦笑し鈴奈は茜に声をかける。
「まぁ、いいんじゃないかな。それで誰が誰か見分けつくし」
そのまま鈴奈は沙綾香の後ろについて歩く。
さらに後ろから蓮と奏が続き、五人はそろって宿へ向かっていった。
太陽はいつのまにか山陰へ沈み、街に静かな影が落ちた。
宿で支度を整えた五人は、闇の深まる森へと歩みを進めた。
「さて、森にはついたけど……どうやって村を探します?」
暗闇の中、雲間から月がちらりと姿を見せては隠れる。その下で、奏が声を上げた。
「そうなんだよねぇ」
そう鈴奈が顔を顰めながら言った。
その時、カサリと木の葉が鳴り奏は森を見るが……そこには自分たちを待ち受けているように不気味に口を開けた森が広がるだけだった。
「そんな運良く例の合図がなるわけないかぁ」
困ったように眉をひそめる鈴奈に蓮は視線を向けた。
その時。
ーカラカラカラ。
暗い森の中から複数の板が当たるような乾いた音が響き、5人はハッとし反射的に森に視線を向けた。
「鳴った……ね」
「鳴った……な」
目を丸くしてつぶやく沙綾香に、茜も思わず同意するように言葉を漏らした。
「どう……します?」
奏は戸惑いを隠せず、みんなの顔を順に見た。
「行こう」
鈴奈の声に皆が頷き、黒で染められ鼻筋だけが際立つ仮面をつけてフードを深く被る。そうして五人は、闇の濃い森へと身を滑り込ませた。
森の中へ一歩踏み込むと、湿った土の匂いと冷たい空気が肌を撫でた。頭上では枝葉が重なり合い、ほとんど月明かしを拒むように闇を作っている。その奥の深い闇の中で、オレンジ色の光がゆらりと揺らめいていた。
「人……か?」
蓮がかすかな緊張をにじませてつぶやくと、オレンジの光は五人を誘うようにふわりと後退し、そこでぴたりと止まってから、合図のように数度揺らめいた。
「……なんか、“こっちへ来い”って言われてるみたいですね」
奏は眉を寄せ、光を警戒するように凝視する。
「どうする?」
蓮は鈴奈へ視線を向けた。
「今は他に当てがないし……追ってみよう」
「了解」
蓮は短く返し、仲間たちもそれぞれ無言で頷いた。
湿った土の匂いと枝葉の擦れ合う音に包まれながら、暗い森を進んでいると、ふと木々が開け、その先に村の景色がぽっかりと浮かび上がった。
――それは、どこかで見たことのある光景だった。




