ロアケニート④
第34話 作戦会議
月の光が差し込む静かな廊下を、五人はファルベたちに導かれながら歩いていった。
扉を開けた先の食堂には、長い木のテーブルが列をなし、素朴ながら温かな匂いに満ちていた。そこで隊員たちが思い思いに腰掛け、賑やかな笑い声を響かせていた。
「ここから好きなものを取ってね」
ロアークはそう言うと籠からパンを一つ選び、トレイに置く。奥に据えられた大釜からは、湯気と食欲をそそる香りが立ちのぼり、鈴奈のお腹が小さく鳴った。
そのとき、背後にいたファルベのもとへ数人の隊員が足早に近づき、ひそひそと話を始めた。
様子をうかがおうと顔を向けた途端、ひょい、と一人の青年がファルベたちを隠すように前へ出てきた。
「あれ? 君たち、新入りかい?」
人懐っこい笑みを浮かべて5人に問いかけてくる。
「あ、いや僕たちは……」
アタフタとする奏に青年はニコリと微笑んだ。
「そうなんだ。って、それだけしか食べないの? ちゃんと食べないとダメだよ」
青年は奏のトレイにサラダをぽんとのせた。
「ほーら、食べたくないサラダを押しつけないの」
背後を振り返ると、シンニエークがトレイを片手に苦笑いを浮かべていた。
「あ、気づかれちゃいましたか」
そう言い、苦笑する奏のトレイからシンニエークはサラダをひょいと摘み上げると、青年に返した。
「話、終わりましたか?」
「うん。ありがとうね」
「いえ」
青年はニコニコと笑みを絶やさないまま手をひらひら振る。
「んじゃ、またね」
そう言って仲間の隊員のもとへ戻っていった。
「ごめんよ。彼、悪い奴じゃないんだ」
シンニエークが肩をすくめ、鈴奈は苦笑で応じる。
「なんかわかります。それより……何かありました?」
鈴奈の問いに、シンニエークは気まずそうに笑った。
「国王陛下にお目通りがあってね」
「こんな時間にですか?」
目を丸くする鈴奈にシンニエークは頬を掻いた。
「まぁ、隊長クラスは仕方ないんだけど。君たちは先に食べてて」
そう言うと、シンニエークは食堂の係へ二言三言を伝え、トレイを返してファルベたちとともに食堂を後にした。
その背中を見送り、五人は空いた席に腰を下ろす。軽いざわめきの中、静かに夕食が始まった。
「で、これからどうするんだ?」
パンをちぎって口に運びながら蓮が切り出す。
「それなんだけど、あとであたしの部屋で話し合わない?」
「賛成。消灯過ぎたら鈴奈の部屋に集まるか」
茜の言葉に全員が頷いた。
——そして時間は流れる。
消灯の合図が鳴ると、先ほどまでの賑やかさは嘘のように城は静寂に包まれた。
その静けさを破らぬよう、奏と蓮は足音を忍ばせて廊下を進む。
コンコン、と奏が扉を叩く。
間もなくドアが開き、鈴奈が顔を覗かせた。
「いらっしゃい。入って入って」
鈴奈が柔らかく微笑む。
2人が入ると、部屋の中央では沙綾香が椅子に座り、茜と話していた。
「よし、全員揃ったな。じゃ、始めようぜ」
椅子の背を逆向きにして腰かけた茜が、片頬を上げる。
「議題は“これからどうするか”ですよね」
「まぁ…」
鈴奈がぽつりと言い、皆の視線に気づくと小さく微笑んだ。
「あたしは、ロアークさんたちの助けがなくても、明日にでも一人で優を助けに行くよ」
「そんな無鉄砲な……」
奏があからさまに眉をひそめる。
「ったく、そーゆーとこ優に似てるよな」
「そーおー?」
茜の苦笑に鈴奈が小首をかしげる。
「まぁ、とにかく」
奏は話を戻すように息を整えた。
「いる場所はわかったとしても、村のどこかまでは分かりません。闇雲に探すのは無理がありますよ」
「鈴奈ちゃん、夢で何か覚えてない?」
沙綾香が問いかけると、鈴奈は少し考え込んだ。
「んー……暗い部屋だったこと。それと、ドアを開けた瞬間、外がキラキラしてた」
「キラキラ?」
鈴奈の答えに奏が首を傾げる。
「ランタンとかの光じゃなく?」
沙綾香の問いに、鈴奈は横に首を振った。
「そうゆうのじゃなくて、もっとこー、水に光が反射したみたいな……そんな感じ」
奏が小さく頷く。
「……なら、近くに湖か池がある場所なんでしょうか」
「また一歩前進だな」
茜がにやりと笑う。
「あとは村への入り方だけど……特殊な入り方なんだよね」
沙綾香は鈴奈と茜に視線を向ける。
「そう。……さすがに、行き当たりばったりでやるしかないんだよね」
鈴奈が困ったように眉を寄せる。
「情報屋さんと話せればいいんだろうけど」
「難しいわよ。指名手配だし」
沙綾香の言葉に鈴奈が唇を結んだ。
「しゃーない、そこは行って考えるしかねぇな。それより決行日だ」
鈴奈は皆の顔を順に見回す。
「さっきも言ったけど、あたしは明日行くよ。優を助けに」
鈴奈の瞳は揺らぎなく真っ直ぐだった。
「俺も異論ねぇよ」
茜が鈴奈の首に腕を回しながら笑う。
「他に意見は?」
視線を向けると、全員がふっと笑った。
「あるとすれば……このままのこれからも格好じゃ目立つってことか」
「だね。明日ここを出て市場で必要な物をそろえて、その日のうちに決行しよう」
全員が頷く。
「じゃ、今日はしっかり休もっか」
「そうね」
沙綾香の言葉に茜が微笑む。
そんな彼女たちを、窓の外から赤い瞳の鳥がじっと見つめていた。
クルッと瞳を動かしたかと思うと、月明かりの夜空へと音もなく飛び去っていった。




