ロアケニート②
第31話 謁見
次の日、緊張した面持ちで5人はロアーク、ラゾート、ファルベ、そして見知らぬ紫髪の小柄な人に連れられ城内の廊下を歩いている。
「なんだ、みんな今日はおとなしいな」
「そりゃ、病み上がりなんだから仕方ないですよ」
紫髪の髪の人は苦笑いを浮かべラゾートに返した。
「まぁそれもありますが、今から会う方が…ねぇ…国王陛下ですから」
そう言うと鈴奈は困ったように微笑を浮かべる。
「そんな怒られに行くわけじゃないんだ。そう固くなりなさんな」
ラゾートは勇気づけるようにバンパンと鈴奈の背中を叩いた。
「いやいや、緊張しないのベガルトさんぐらいですよ」
「そうかぁ?」
「そうです」
そんなラゾートと紫髪の人との呑気な会話を聞きながら、太陽の光がアーチ型の窓から差し込む廊下を歩いていく。
そして、一段と美しい扉の前で全員が足を止めた。
「よし、ついた。みんな準備はいいかい?」
ファルべが全員の顔を見渡す。
鈴奈は軽く息を吸い吐くとファルべに頷いて見せた。
「それじゃぁ行くか」
そうファルべが言うとラゾートと共に扉を押し開けた。
5人は、ファルべたちのあとに続き綺麗に磨かれた大理石の上にひかれた金色で縁取られた赤い絨毯を歩いて行くと、豪華な椅子に座る一人の男性の前で片膝をつき頭を垂れる。
「面をあげよ」
男性に言われ全員が頭を上げた時。
「あー!インベートだぁ!」
男性の横にある椅子に腰掛けていた美しい女性の膝にのっていた可愛らしい5歳ほどの少年が、女性の膝からおりファルべに走り寄ると、勢いよく抱きついた。
「こんにちは、王子」
王子を抱きとめたファルべは少し困ったように笑う。
「こんにちは。あっ!ベガルトもノアもシリュートもいるー」
目を輝かせる少年に名前を呼ばれた4人は微笑みを浮かべた。
「インベート、今日は遊べる?」
「んー、今日はちょっと無理かもしれませんよ」
「えー、なんでー」
無邪気に問い返す王子にファルベは優しい笑みを浮かべた。
「俺たちは国王陛下とお話をしないといけないので」
「えー」
王子はそう言うと、頬を可愛らしく膨らませる。
「それに、今日はお勉強の日ではありませんでしたか?」
ファルべの言葉に王子は嫌そうに顔をしかめる。
「シリュート、インベートがいじめる」
王子にクイクイと服を引っ張られた紫髪の青年は苦笑いを浮かべ王子に視線を向けた。
「いえ、別にインベートさんは意地悪で言ってるわけではないですよ」
「えー」
不服そうに言うと、ふと王子は鈴奈たちを見る。
「あれ?このお兄ちゃんたち、新しい兵隊さん?」
「王子」
ファルベは蓮と奏を指差し
「この2人以外の子たちは女性ですよ」
「えっ?そうなの?てっきりシリュートみたいに女の人みたいな男の人かと思った」
そう言い王子は紫髪の青年を見た。
「「「「えっ?!」」」」
驚きの言葉に茜、紗綾香、鈴奈、奏、蓮は思わず紫髪の青年を見る。
5人に視線を向けられた紫髪の青年は首を傾げた。
「ん?もしかして、みんな僕を女だと思ってた?」
「あ……いやその」
手を振りながら沙綾香が言う。
「そりゃそうだろ。お前、自己紹介してないだろ」
呆れるファルべに椅子に座っていた女性はクスリと笑う。
「たしかに。自己紹介しないのはいけないわね、シンニエーク」
「はい。女王陛下」
シンニエークと呼ばれた紫髪の青年は再度頭を下げると、5人を見る。
「自己紹介遅くなってごめんよ。僕はシリュート・シンニエーク。よろしく」
「こんな可愛い声だけど、男の子なんだよ」
そう一生懸命説明する王子に思わず全員の頬が緩む。
「レニ。ほら、みなさん父上とお話があるんです。こちらへ」
「はい。母君」
レニ王子はタタタと走って行き女王の膝にちょこんと座った。
「いやぁ、すまなかったね。さて、今日はどうしたのかね」
国王の言葉に5人は目配せをすると、鈴奈が口火を切った。
「今日は国王陛下にお願いがありまして参りました」
「ほぉ」
そう言う国王に5人は自己紹介と起きたことを代わる代わる話した。
「ですので、優を助けるためにファルべさんたちに手をかしていただけないでしょうか」
「なるほど。話はわかった」
5人が話終わると今まで黙って話を聞いていた国王が口を開いた。
「しかし、彼らは我が軍に所属している。万が一何かあった場合に我が国の信頼が危うくなる。その場合、子供の命1人では済まなくなる」
「そうなったら、俺が勝手にやったということで辞めさせればいいです」
ファルべの言葉に国王はため息をつくと、微笑を浮かべファルべを見た。
「お前は我が国にとって必要な人材だ。そんなことできん。話はそれだけか?」
国王の言葉に5人は項垂れ、ファルべは「はい…」と短く答えた。
「そうか。下がれ」
9人は頭を下げるとトボトボと部屋を出た。
「本当にごめん!」
部屋を出るとファルベは開口一番にそう言うと深々と頭を下げる。
「俺…なんの役にも立てなかった」
「いえ、あたし達こそワガママ言ってすみませんでした」
鈴奈は申し訳なさそうな4人に苦笑いを浮かべる。
「今日は!今日は駄目でしたが、また次、行ったら了承してもらえるかもしれないよ」
バタバタと手を動かしシンニエークは言った。
「捕まってる彼女がそんな余裕がない状況かもしれないんだろ?」
眉間に皺を寄せ視線を向けたラゾートに5人は頷く。
「なにか……何か…」
そう言い考えはじめるファルべに鈴奈は悲しい顔をしたまま微笑む。
「ありがとうございます。迷惑はかけられないです。行こうみんな…」
「行くってどこに?」
不安げに問うシンニエークに鈴奈は苦笑いをまた浮かべた。
「安心してください。部屋に戻るだけです。さすがにまだ、体痛いので。行こうみんな」
5人はファルべたちにお辞儀をすると、無言で部屋までの廊下を歩いて行く。
窓から差し込む陽はいつの間にかオレンジ色に変わり、周りの景色も影を落としていた。
「で、これから……どうします?」
ポツリ蓮が尋ねると沙綾香は苦笑いを浮かべた。
「どうしようかしらね……」
「こうなったら、俺たちだけで行くしかないだろ」
ムスッと茜が返すと再び沈黙がおりる。
「ならそのためにも、俺ラゾートさんに剣術とかもっと教わりたいです」
沈黙を破り蓮が言う。
「そうだね。できることをしよう。色々と備えて必ず優を助けに行こう」
鈴奈の言葉に全員が固く頷いた。




