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保険室からはじまる異世界転記  作者: 早暁の空
第1章 異世界へようこそ
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ようこそ 異世界へ ②

第2話 記憶と公国の王


全員が堰を切ったように泳ぎ出す。

しかし茜は、沙綾香を連れているからか、なかなかスピードが出せずクラーケンとの距離が詰まっていく。


「茜!私を置いて逃げて!」


必死に訴える沙綾香の声を無視して茜は泳ぎ続ける。


「茜!」


泣きそうな声を張り上げる沙綾香の手を茜は離さなかった。

しかし、泳ぎ慣れていない人間にクラーケンの巨大な体が津波のように迫る。


(このままじゃ二人が…風紀!一緒に来たみんなを近くの陸まで吹き飛ばして!)

「しかし、そんなことをしたらお主の体が」

(ここで死ぬよりいいでしょ!早く!)


急かす優を風紀は見ると諦めたように


「承知した」


と短く言った。

海に現れた巨大な竜巻がヒョイと全員の体を持ち上げると、あっという間にクラーケンとの距離を離し、ポイとどこかの砂浜に全員を放り投げた。


「いててて」


優が体を起こした時、キーンとまるで金属を叩いたような甲高い音がした。ハッとするように振り返ると、腕をうねらせながら再び、クラーケンはキーンと音を立てた。


「とにかく、ここを離れましょう」


全員が無言で立ち上がりメガネの青年のあとに続き歩き始める。

パンパンと服についた砂を払い優が一歩踏み出した瞬間、停電したように目の前が真っ暗になった。


家が…炎に包まれる。


(これは……いつもの夢だ)


高校生の優の目の前には舐め尽くす炎に乾かされた涙のあとがある顔で両親を見ている幼い頃のじふんがいた。


「早く出なさい!」


いつもは優しい父親が鬼のような形相で怒鳴る。


「でも!お母さんが!」


幼い優は振り返る。

そこには倒れたタンスが覆いかぶさった大好きな母親がいた。


「お母さんたちはあとで行くから。行きなさい!」

「でも…でも…」

「「優!」」


いつもとは違う両親に怒鳴られ優はくしゃりと顔を歪めた。


(逃げるな!二人を助けて!)


それが叶わぬ結末とわかっている高校生の優は願った。

しかし、幼い優は高校生の優の気持ちなどわかるはずもなく、泣きながら家を飛び出した。

振り返る家は赤い炎が飲み込んでいた。


パチパチという心地よい音がする。優がゆっくり目を開けると、岩肌に大きな影が揺れている。


(…あぁ、この音がしたからあんな昔の夢を見たのか⋯)

「目が覚めたか」


その声に顔を向けると、風紀が優しい笑みを浮かべていた。


(あ、こっちも夢じゃないのか)

「夢ではないぞ。具合はどうだ?」


風紀は優しく優の頬に手を当てる。冬の空気のようなヒヤリとするその手が心地よい。


(体がだるい…です)


すると風紀は苦笑いをした。

「それは自分が使える容量以上の魔力を使ったから、体に反動がきたのさ」

「魔法?」


風紀の説明に優は、現実世界では聞かない単語に声が漏れた。


「気がついたんだね」


そう言い、セミロングの女子生徒が優の前に座った。


「体調はどう?」

「まだ体がだるいですが、動けはしそうです」

「ダメだよ。熱あるんだから」


今日はよくダメだと言われる日だなぁと思いながら優は「すみません」と短く謝った。


「相変わらずよく謝るね」

「ん?相変わらず?あの、なんで私の名前を?」


すると、セミロングの女子生徒は少し悲しそうな表情をした。


「そりゃ知ってるよ。優が木登り名人で、よく施設の木にのぼって怒られたのも、いじめっ子だった男子より喧嘩が強かったのも」


数々の黒歴史を暴露され、優の頭の上をハテナが踊り狂っていた。

それをクスクスと笑いながら彼女は見ていた。


「百面相なのも変わらないね」


そう言いツンと人差し指で優のおでこをついた。

その仕草に優はハッとした。両親を火事で亡くし施設で生活していた時、施設にいた親友がよく優にしていた。


(そうだ⋯たしかその子も、この人みたいに陽に当たったら茶髪になる髪をしていて⋯)


火に照らされた茶色髪と面影のある顔に優は目を丸くした。


「もしかして上野⋯鈴奈⋯鈴ちゃん?」

「もーやっと気がついた」

「うわぁ!久しぶり!」


鈴奈の手を取る優の喜びっぷりに 鈴奈は苦笑いを浮かべるが人差し指を唇にあてた。


「みんな寝てるから」

「あっ!」


優は声を上げ人差し指を口に当て二人は昔のようにクスクスと笑う。


「月島優」


不意に風紀が優を呼んだ。


(フルネームで呼ばなくても。どうしたんですか?)

「誰かが来るぞ」


苦笑い気味に言う優に風紀は酷く怖い声色でそう言い洞窟の奥に視線を向けた。

風紀の視線を自然と追うように優も洞窟の奥を見る。


「ん?どうした?」

「誰か来る」


その様子に鈴奈が声をかけると、優は真剣な声で呟くように言った。


洞窟の奥に視線を向けていると、チラチラと灯りがこちらに近づいてくるのが見えはじめた。


「みんなを起こそう」

「うん」


2人は寝ている4人を起こしてまわった。

その間にも灯りは近づき、全員が起きる頃には灯りは近くまで来ていた。


しばらくすると、洞窟の奥から松明を持った筋肉質でガッチリとした男と細身だが、よく鍛えらた体つきの男性が歩いてきた。


「お前ら何をしている」

「すみません。私たち海に落ちてしまい、日も暮れてきてしまったのでここで野宿させてもらっていたんです」


筋肉質な男性の問に鈴奈が答えると二人はなぜか苦い顔をした。


「申し訳ないけど一刻も早く立ち去ったほうがいいよ」

「それはなんでですか?」


細身の男性が困ったように笑い、話を続けようと口を開いた。


「お前たち何をしている」


その声に二人はあからさまに顔を顰め、すぐに厳しい表情にすると振り返った。


「いえ、この者たちがこの洞窟で雨宿りしていたので声をかけたんです」


細身の男性は、洞窟から現れたでっぷりとした体型の男に言った。


「ほぉ。それはここが我がルミナス・ハイトの領土と知っての行為か

……んー」


ルミナスは、まるで値踏みするように奏、蓮そして茜を見ると、ニンマリと笑みを浮かべた。


「ならば、そこの三人が我が城に来たらこの無礼は見逃してやろう」


ルミナスが指さす先には茜、蓮、奏がいた。


「他の奴らは?」


苦い顔をする茜の言葉に、ルミナスは優たちを見ると、フンと鼻を鳴らしゴミを見るような視線をむけた。


「私は女には興味はなくてね。ロアーク、ラゾート」


ルミナスはでっぷりした片頬を上げ、筋肉質な男と細身な男に命令をした。


「捕まえろ」

「鈴ちゃん空手はまだいける?」


鈴奈に優は低く声をかけた。


「どうかな。やっていた頃よりは鈍ってるかも」


難しい顔をする鈴奈に優はニヤリと笑う。


「頼りにしてるよ」


優は言い残すと、茜に手をのばす筋肉質の男に駆け寄り、一気に間を詰めると地面を蹴った。円を描くように大きく飛び、回転をつけると自分の足を筋肉質な男の顔めがけて振りかぶった。

筋肉質な男性は優の不意な攻撃に驚いた表情をするが、片腕ひとつで優の蹴りを防ぐと、振りかぶられた優の足を握りニヤリと笑う。


「いいねぇ。いい蹴りだ。さぁ次はどーする?」


男性は挑発するように言った。

優はニコッと笑うと、すぐに真顔に戻り、取られた足を内側に曲げた。予想外な行動に男性は引っ張られように体制から前屈みになる。そこに優は肘を思いっきり男の顳かみ向けて振りかぶった。

まともに顳かみに優の攻撃を受けた男はフラフラっと優から離れた。


「今のは痛かったな」


先程より低い声で言うと、睨むように優を見る。


優はチラッと目の前の男から視線をはずし、鈴奈に視線を向ける。


ジリジリと間をはかっている鈴奈を細身の男性は、何もせず笑みを浮かべながらジッと立って見つめていた。


「よそ見してたら命取りになるぞ!」


ハッとし視線を戻した優に筋肉質の男性は掴みかかりそのまま地面にうつ伏せにする。


「優!」

「君の相手は僕だよ」


思わず叫んだ鈴奈に向けて細身の男性は杖を振りかぶった。

鈴奈は左足を軸に足を回し男の手首を蹴りつけた。

男の手から吹き飛びカランと音を立てて地面に転がった杖を、蓮は蹴り遠くに飛ばした。


優がホッとしていると拘束が解ける。見上げると茜がファインディングポーズのままに優に背中を見せていた。


「闘えるのはこいつらだけじゃないんだぜ」


筋肉質の男性にニヤリと茜が笑う。


「何をモタモタしている!」


イラついたようにルミナスは二人に叫んだ。

細身の男性は軽くため息をついた。


「仕方ない」


細身の男はぶつぶつと何かを唱えると、6人の足元に見たことがない文字が描かれた巨大な青い光る輪が現れた。


「えっ?」


呆然としている優の目の前でドン!と細身の男は右足で強く地団を踏んだ。その瞬間、全員がまるで見えない巨大な手で地面に押し付けられたかのように地面にひれ伏し動けなくなった。


(くっ!なに?!)


細身の男性はスタスタと飛ばされた杖に近づき拾うと、コン!と杖で地面をついた。

その瞬間、重圧は更に強くなり、優の意識は暗闇に放り投げられた。

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