アナイキ ⑦
第22話 治療と……助ケて
茜はまだ人気がない大通りを宙をかけるように酒場に急いで行く。
「連れてきた!」
そう叫ぶと茜は酒場に飛び込んだ。
「待ってくれ…。老体をそう走らせるな」
そう言いながら息を切らした老人も茜のあとに続き酒場に入ると膝に手を置き、上がる息を整えた。
「2階の宿場の部屋だ」
そう言いマスターは2階にある個室に案内をした。
ガチャリとドアを開けると、泣きそうな顔で鈴奈の手を握っていた沙綾香が涙が溜まった瞳を茜に向けた。
「茜…。鈴ちゃんが…息…してなくて。毒が回るから心臓マッサージもできなくて」
ポロポロと涙を大きな瞳から零しながら茜に手をのばす沙綾香の手を茜は握った。
「これは…かなり回っとるな」
おじいさんは鈴奈の前に座り、顔を顰めた。
「これじゃワシ1人じゃ無理だ」
「そんな…」
つぶやく沙綾香におじいさんはニコリと笑いかけた。
「なぁに。ワシ1人では…と言ったろ。お主たち、魔法が使えるじゃろ?」
沙綾香と茜は目を丸くしお互いの顔を見た。
「なんでそれを?」
茜の問に片頬を上げた。
「ワシも使えるからのぉ。わかるんじゃよ。お主たちの魔力を分けてくれんか?その力を使ってこの子の毒を取り出す」
沙綾香と茜は驚いた顔を見合わせるが、真面目な表情でおじいさんを見た。
「わかった」
茜は大きく頷いた。
「何をすればいいですか?」
沙綾香が尋ねると、おじいさんはニコリと笑みを浮かべた。
「なぁに、ワシの背中に触れていればいい」
「背中に?」
沙綾香は不思議そうにおじいさんに近づいた。
「こう…ですか?」
そう言い小さな背中に右手を置いた。
茜も足早におじいさんに近づくと、背中に手を置く。
「そうじゃそうじゃ。ちと辛いかもしれんが辛抱してくれ。行くぞ」
おじいさんは鈴奈に手をかざす。すると、おじいさんがかざした手と鈴奈の体の間に黒い液体が集まり、球体を作っていく。そしてその球体を持ってきたフラスコにいれ蓋をしめた。
「よし。完了じゃ。よく頑張ったな」
その言葉を聞くと2人の体から力が抜けその場に倒れた。
「先輩!」
そばで見ていた奏が駆け寄り意識を失っている2人を抱きとめた。
おじいさんは床に寝かされた2人に近づき、息があるかや心臓の音を確かめ顔を上げ、笑みを浮かべた。
「大丈夫じゃ。2人とも気を失っとるだけじゃ」
「そうですか」
奏はホッと息をついた。
「力をちと使わせすぎてしまったのぉ」
おじいさんは2人から鈴奈に視線を向けた。
「こっちの子ももう大丈夫じゃ。みんなよく頑張ったのぉ」
そう言うと優しく3人の頭を撫でた。
「さて、ワシはこれで失礼しようかのぉ。また夜に来るよ。それまでこの子たちは安静にさせといてくれ」
「あの!」
フラフラと立ち上がり部屋を出て行こうとするおじいさんを奏は呼び止めた。
「…ありがとうございました」
深々と頭を下げる奏でおじいさんは背中越しにヒラヒラと手を振り部屋をあとにした。
奏はおじいちゃんの背中から少し荒く息をしている先輩たちをどこか泣きそうな表情で見るとグッと手を握った。
その時、背後からドタドタと階段を上がる音がし、水を滴らした蓮が部屋に飛び込んできた。
「先輩は?!」
「あとは安静にしてれば大丈夫だってさ」
「よかった。…ってかお前はなんで怒ってんだ?」
ブスっと答える奏を連は不思議そうに見た。
「うるさい」
噛み付くように答える奏に蓮は少し困ったような顔をした。
「んだよ。人が心配してやってんだろ」
奏は蓮から視線を逸らし俯いた。
「…自分の…無力さに反吐が出そうだ」
「あー」
そう言うと蓮は頭に手を当てた。
「それは俺もだ」
「よく言う。僕は上野先輩や月島先輩みたいに武力に長けてるわけでもないし、湯島先輩みたいに弓が得意なわけでもない。かといって大塚先輩やお前みたいに運度神経がいいわけでもない」
「お前、運動からっしきだもんな」
「うるさい」
反論する奏にニヤニヤとした笑みを蓮は浮かべる。
奏はムッとした顔で蓮を見るが再び俯くと拳を握った。
「何の役にも立たない自分に腹が立つ」
「…お前さぁ」
蓮は頭に手を当て話を続けた。
「頭いいんだから、その頭の良さで、諸葛孔明みたいに色々と作戦立てたりしてサポートみたいなことできるだろ」
奏は驚いたように目を見開き蓮を見る。
「んだよ」
ムッとした顔で言う蓮に奏は笑みを浮かべた。
「あなたみたいな人でも孔明を知ってるんだなと」
「あぁ?バカにしてんのか?」
「真実を言っただけだよ」
「さっきも言ったが、お前ホントその性格の悪さ直せ」
はぁと息を吐きながら呆れたように言う蓮に奏が言い返そうと口を開いた時、2人の前にゴロゴロと何かが床を転がってきた。
視線の先に転がる茶色い玉からぶわりと白い煙が部屋を覆った。
「なんだこれ?」
訝しげな蓮の目の前に煙を切り裂きき刃物が迫ってくる。しかし、あまりに唐突なことに蓮は反応できなかった。
「蓮!」
蓮の前に立ち塞がる奏の目の前で優の短刀が鼻先でピタリと止まる。
目を見開く奏の前で優の紅くない右の瞳から涙が流れた。
「助け…テ…殺シたク…なイ…よ。ゔっ」
頭を抑え数歩下がると優はそのまま、フラフラと眠っている茜の横に行き短刀を振り上げた。
「やめろ!月島先輩!」
走り出し手をのばす奏の前で優は眠っている茜の喉元に短刀を振り下ろす。




