アナイキ ⑤
第20話 作戦会議
「あー、いててて」
その場に胡座をかき座り頭を抑えた茜に鈴奈は駆け寄った。
「大丈夫?!」
「あぁ。お前は?」
茜の前で不安げに屈み視線を向ける鈴奈は少し悲しそうに笑みを浮かべた。
「あたしは大丈夫」
「そっか。優は?」
鈴奈の背中越しに茜は優がいた場所を見た。
「出ていっちゃった…」
「そうか」
悲しそうな声で鈴奈が答えると茜は頭をガシガシと掻き回す。
「…なんなんだ?あれ」
「わからない」
首を振り鈴奈は続けた。
「でも、優が…優が理由なくあんなことするとはあたしは思えない」
「そうでしょうか」
鈴奈の背後からする声に振り返るとやれやれと言うように頭を撫でながらこちらに歩いてきた。
「僕たちを見限ったという可能性だってありますよ」
奏はそう言うと、近くにあった椅子に腰掛けた。
「それはない。優は…優は裏切ったりしない」
怒りを含んだ硬い声で言うと鈴奈は奏を睨みつけた。
「その根拠は?」
「優は仲間思いな子だから。そんな優があたしたちを理由なく裏切ったりしない」
冷たく言い放つ奏に鈴奈は怒りをぶつけるように返した。
「ならそれなりの理由があったのでは?」
「どんな?」
「例えば…自分一人だけ元の世界に戻るとか。イタッ!」
鈴奈がキュッと唇を噛んだ。
その時、不意に奏は脇腹を蹴られ椅子から転げ落ちた。怒りを溜め込んだ表情で横に視線を向けると、蓮が呆れたように奏を見下ろしていた。
「大塚先輩の時から思ってたけど、お前もっと人の気持ち考えろ」
「僕は真実をただのべているだけだよ」
「そーゆーとこだって言ってんだろーが」
蓮は歯を食いしばりながら言うと、奏を睨む。
「ちょっと。喧嘩してる場合?」
そう言いながら沙綾香が階段をおりてきた。
「大丈夫か?」
沙綾香は茜の隣に椅子を置き座ると微笑を浮かべ茜を見た。
「うん。だいぶマシになったかな」
「そうか」
ホッとしたように茜は笑みを浮かべた。
「なんでそこまで月島先輩を信用するんですか?」
「あいつはまっすぐだし…名前が看板背負って歩いてるんじゃないかってぐらい優しいし、仲間思いだ。そんな奴が裏切るか?」
まっすぐ茜は奏を見た。
「…裏切った相手を信用なんかできませんよ」
「なら話を聞いて、分かり合うまで話し合って、もし私たちに非があるならそこを直すわ」
力強い声で言う沙綾香にフッと茜は笑みを浮かべた。
「そこまで言うなら、なぜ先輩はあんなことを?」
「そこなんだよな」
ムッと言う奏の言葉に茜は腕を組み思案を巡らせる。
「…洗脳もしくは操られてた…とか」
「ならいつから?」
蓮の言葉に鈴奈は呟き考え込んだ。
「…あっ!」
ハッとした茜は顔を上げた。
「どうしたの?」
そう尋ねる沙綾香の横で茜は苦い顔をする。
「あいつが1回だけ変な夢を毎日見るって話をしてくれたことがあったんだ」
「どんな?」
話しにくそうな茜を鈴奈は促す。
「声がするんだって」
茜はポツリとこぼした。
「その声が夢を見る度に近づいてきてて怖いんだって。その時はただの夢だって思ってたけど、もしそれが洗脳の類だったら…」
茜は意見を求めるように鈴奈を見た。
「可能性はあるよね」
「クソッ。あの時、もうちょいまともに聞いてれば」
茜は顔に手を当て唇を噛みしめる。
「仕方ないよ。普通はただの夢だって思うよ」
苦笑いを浮かべ鈴奈はポンと茜の背中に手を置いた。
「で、どうするんです?」
「もちろん、優が洗脳されてるならそれを解く。見限ったなら…」
呆れたような奏に鈴奈はそこで黙り込んだ。
「もちろん説得をして戻ってきてもらうわ」
自分に視線を向ける鈴奈にニコッと沙綾香は笑うと、再び全員を見た。
「あとは優ちゃんがどこに行ったかよね」
沙綾香は少し首を傾げた。
「情報を集めるにしても、お金がないのでまた情報屋にはいけないですよ?」
奏の言葉に全員が黙り込んだ時、グーッと情けない音が静けさを切り裂いた。全員が音の先を見ると慌ててお腹を抑える蓮が恥ずかしそうに立っていた。
「そういえば朝ごはんまだだよね。ちょっとある物で作り直してくるよ」
笑みを浮かべると鈴奈はキッチンに歩いて行った。
「なら俺たちはこの辺片付けるか」
頭に手を当てると茜は立ち上がった。
料理をしている鈴奈はぼーっとした表情で手が止まり、思いにふけっていた。
「大丈夫っすか先輩」
キッチンに顔を出した蓮が声をかけ鈴奈に歩み寄った。
「あっ、ごめんよ。あっち!」
謝って熱々のフライパンが指に触れ鈴奈は慌てて手を引っ込めた。
「大丈夫っすか?」
鈴奈の腕を掴み蓮は慌てて水をかけた。
「ありがとう。ダメだなぁ。動揺しないようにしてたのに…」
鈴奈は苦笑いを浮かべた。
「たしか月島先輩とは知り合いなんですよね」
蓮は鈴奈の指に水をかけながら尋ねると鈴奈は苦笑いをする。
「そう。こーーんな小さい時から一緒にいた」
そう言いながら鈴奈は自分の腰より下に左手を落とした。
「なら動揺しないのは無理っすよ。高田が余計なこと言ったし」
「まぁ…。2人は仲いいよね」
鈴奈の言葉に蓮は片方の眉を上げた。
「そうですか?」
「うん。2人はクラスメイトなの?」
「いえ」
蓮は首を横に振った。
「俺たちは同じ軽音部の仲間です」
鈴奈は目を丸くする。
「高田くん軽音部なんだ。…ちょっと失礼かもしれないけど意外かも」
「そうすっか?あいつ歌上手いです…あっ!」
急に耳そばで大声に鈴奈はビクリと肩を震わし驚いたように蓮を見た。
「何?!急に大きい声出して」
「先輩!俺、金稼ぐいい方法思いつきました」
「えっ?」
キョトンとした表情で鈴奈は蓮を見た。




