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保険室からはじまる異世界転記  作者: 早暁の空
第1章 異世界へようこそ
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アナイキ ①

第16話 薬草の香りの部屋


優が目を覚ますと、優しい薬草の香りがする知らない部屋に寝かされていた。


(ここは…どこだろ…。みんなは…みんな!)


一気に記憶が蘇り、優はガバッと起き上がる。

並ぶベッドを見るとみな、空だった。


(とにかく、みんなを探さないと)


フラフラと歩いていき、部屋のドアノブに手をかけると、すんなり回りカチャリとドアは簡単に開いた。


(えっ?監禁する気なら不用心すぎない?)


顔を顰め部屋を出ると、優は壁に手をつきながら廊下を歩いていく。

しばらく廊下を進むと木でできた階段が見えた。


「…で…は……」

(話し声?)


そろそろと階段を数歩おり、優は耳をそばだてた。


「やっぱりここは…」


沙綾香の強ばった声がした。


「おそらく君たちがいた世界と違う世界に君たちは来てしまったんだろう」

「っ!」


優は息を飲む。


「まぁ、何となくは気づいてはいましたが」


そうため息混じりに奏が言うのが聞こえた。


「そうだね。ロアークさんやルイさんの魔法を見た時点で察しはついてはいたけど…」

「問題は戻れるかどうか…です」


鈴奈の言葉に奏が続けた。


「…それは正直私たちにもわからない」


知らない男の声が答えた時、カナズチで殴られているような頭痛と体のダルさに限界をむかえ、優はゆっくりと元きた階段を戻ろうとした。

その時


「お前、何してるんだ?」


振り返った先に心底不思議そうな表情をして立つ少年に、優の心臓が早鐘のようにうつ。

慌てて立ち上がった優を急に体が落ちるような目眩が襲い、そのまま倒れ込んだ。


「おい!大丈夫か?!」


バタバタと足音がする。

襲いかかる恐怖を払うように、優は立ち上がり逃げるように元きた廊下を歩いていった。


「おい!」


焦ったような声が背中越しから聞こえる。

優は激しい動悸と上がる息で廊下を歩いた。


(逃げなきゃ…逃げなきゃ)


それだけが優の頭をいっぱいにさせた。

その時、誰かが優の腕を掴んだ。振り返った先には真剣な表情を浮かべた茜が立っていた。

茜はゆっくり優に近づくと優しく顔を覗きこんだ。


「大丈夫だ。ここにいる人たちは味方だ。…説明はややっこしいけど、とにかく信じてくれ」


茜の優しい声にスーッと優の胸を埋めつくしていた恐怖と不安が消え、フッと体から力が抜けた。


「お、おい!」


ガクンとその場に膝まずいた優を抱きとめた茜は叫んだ。



「とにかく寝台に」


少し恰幅のいい男性が優を覗き込み顔をあげ当たりを見た。


「なら、私が運ぼう」


茶髪の男性が優に近づくと、優はギュッと茜の服を掴む。

すると茜は優しい笑みを浮かべポンと優の背中を叩き男性を見た。


白羅はくらさん、俺も一緒に行ってもいいですか?」


白羅と呼ばれた恰幅のいい男性は頷いて見せた。


「もちろんだよ。それでこの子が安心するなら」


茜は微笑を浮かべ優の頭に手をのせた。


「ってさ」

「なら失礼して」


茶髪の男性は軽々と優をお姫様抱っこすると歩き出した。

優はふと、父親に幼い頃に同じようにお姫様抱っこされて寝床に運ばれたことを思い出し泣きそうになる。


「辛いかい?すぐに白羅が診て楽にしてくれるさ」


チラっと視線を落とした男性の言葉に優は泣きそうな気持ちを隠すように俯く。

男性は優をベッドに置くとあとに続いて入ってきた白羅の肩をポンと叩いた。


「じゃ、あとは頼んだよ」


そう言い部屋をあとにした。


「ちょっと診せてもらってもいいかい?」


優が不安そうに茜に視線を向けると、茜はまた優の頭に手をのせた。


「大丈夫だつったろ?彼は白羅さん。お医者さんだ。心配すんな」


頷く優に白羅は近づくと、手をかざした。

思わずビクリと肩を揺らす優に白羅は手を引っ込めた。


「ごめんよ。びっくりするかもしれないけど、痛いことはしないから」


再び目を閉じ、優の頭からずっと手をかざして行く。

まるで太陽の光に当たっているような心地よい暖かさを優は感じた。


「うん」


そう言うと白羅は目を開け微笑んだ。


「体に異常はなさそうだね。あとは熱がひくだけだけど、オイラの薬じゃ効かないみたいなんだ。だから、こればかりは君の体力次第になっちゃうんだ。そのためには、ゆっくり休む必要があるからね。なにか必要な物はあるかい?」


少し考え、優は細い声で


「お水を…」


すると茜が立ち上がった。


「なら俺が」

「いや、オイラが取ってくるから、茜さんは彼女といてあげてほしい。いいかい?」


茜は頷いた。


「わかりました」

「ありがとう。じゃぁ、ちょっと待っててね」

「あの!」


部屋を出ていこうとする白羅を優は呼び止めた。


「あの、馬場くんは…その…」

「馬場くん?」


いい籠もる優に茜は笑みを浮かべた。


「あいつは大丈夫だ。今は別の部屋で休んでるよ」

「よかった…」


心底ホッとした声に白羅も優しく笑った。


「それじゃ水取ってくるね」


そう言うと白羅は部屋を出た。


「あの」


おずおずと優は切り出した。


「…体調大丈夫ですか?えっと…契約したみたいだから」


優が茜の背後にいる水色のドレスの女性を見ると茜は驚いた顔をした。


「見えるのか?!」


優は弱々しい笑みを浮かべる。


「はい」


頷き短く「風妃」と呼ぶと、ふわりと風に服を靡かせて風妃が姿を見せた。


「お前…なるほどな。なんか色々と納得できたわ」

「あははは」


頭を抱えるようにして呟く茜に優は乾いた笑いを漏らした。


「もしかして沙綾香もか?」

「んー。それは本人に聞くべきじゃないでしょうか。言う言わないは湯島さんが決めるべきだし」

「…それはほぼそうだって言ってるようなもんだけど」


「やべっ」と口を抑える優に茜は苦笑いを浮かべた。


「ま、機会をみて聞いてみるわ」

「はい」


話が一段落した時、ドアがノックされ、2人はドアに視線を向けた。

茜は立ち上がりドアに近づくとドア越しに誰かと話し、水が入ったコップを手に戻ってくる。


「あとで鈴奈がお粥持ってくるってさ」

「おー、名前呼びになってる」


驚いたように言うと茜は頭に手を当てそっぽを向きながら


「…ここまで来たら名前呼びでいいだろって沙綾香がな」


茜は優を見た。


「っうことでお前もそうなるからな。優」

「はい、痛っ!」


額をデコピンされ、優は驚いた顔で茜を見た。


「敬語もなしだ」

「あ、は」


茜にギロっと睨まれ優は肩をすくめる。


「うん」

「うっし!」


茜は満足そうにニヤッと笑うと立ち上がった。


「んじゃ、お粥がくるまでゆっくり休んでろ」

「うん、ありがとう」


茜は手をフリフリ部屋を出ていった。

優は暗い部屋でホクホクした気持ちに浸り笑みを浮かべた。

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