ザラ ③
第14話 池と前夜祭
次の日、6人は手分けして写真に写っている女の子を探すことにした。
優はペアーを組むことになった奏と歩いていると、老婆が歩いているのを見つけた。
「あ、あのちょっといいですか?」
「はいはい何でしょうか」
ニコニコしながら立ち止まった老婆に優は写真を見せた。
「あの、この女の子ってどこの子かわかりますか?」
写真に写る女の子を指さし尋ねると、老婆の顔は見る見る青ざめ、ガタガタと震え出した。
(えっ?)
「知らない!私は何も知らない!」
そう叫び老婆はその歳とは思えないスピードで歩いて行ってしまった。
「…ありゃ行っちゃった」
「何でしょ。なんだか意味ありげな去り方しましたね」
「うん……」
奏に短く答えると、優は老婆が去った方向を見つめた。
仕方なくまた人を探してぶらぶらと歩いていると、昨日、子供を見たお母さんを見かけた。
「あっ!こんにちは」
優が声をかけると、赤ちゃんを背負った女性は振り返り優に笑みを浮かべた。
「あぁ。昨日はありがとうございました」
「いえいえ」
優は短く答え、女性が背負っている赤ちゃんにいないいないばぁをすると、赤ちゃんは「キャッキャッ」と声をあげ喜んだ。
赤ちゃんにとろけた笑みを浮かべると優は女性に視線を移した。
「あの、今日はお聞きしたいことがありまして」
「はい何でしょう」
優は写真を取り出し女性に見せた。
「あの、この女の子をさがしているんですが…何か知っていませんか?」
そう尋ねた時、女性は目を見開き口に手を当てていた。
「それを…どこで?」
「あ、えっと」
どう説明していいのか迷った優は奏を見た。
「昨日、僕たちが泊まらせてもらっている家の近くで女の子が落とすのを見たので、返してあげようと探しているんです」
「そんな馬鹿な。だってその子は……、ごめんなさい。ごめんなさい」
そう言い女性は、家の中に逃げるように入って行ってしまった。
「なんかみんな似たような反応をしますね」
「うん……なんでだろ」
優は首を横に倒した。
「まぁ、とにかく他をあたりましょう」
「そうだね」
そう言い優と奏は歩きだした。
しばらく歩くと、大きな池についた。
池の水は深い緑色に染まり、お世辞にも美しいとはいえず、鬱蒼と茂った木々で影を落としているからか、不気味さを醸し出していた。
「うわぁ、すごいね」
「そうですね」
そう返事をすると奏は歩いていった。
(ひー。話しづらいよー。ん?)
ふと、見ると池の畔に茶色い髪の女の子が両足を抱えシクシクと泣いてるのが目についた。
(あれ?あんな子、村にいたっけ?)
優は首を傾げた。
(とにかく泣いてるし)
優は女の子に近づくと、小さく笑みを浮かべた。
「どーしたの?迷子?」
すると、クルンと振り返った少女は頬まで口を吊り上げ、ニヤァと笑った。その瞬間、まるでテレビの電源をブツンと切られたように、優の視界が真っ暗になった。
「何やってるんですか!先輩!」
次に優の意識は奏の怒鳴り声で返った。
横を見ると奏が怖い顔をして優の腕を掴んだまま池の中にいた。
「あ…れ?」
見ると自分は池に体を半分ぐらいつけていた。
「あれ?なんで私…」
「それはこちらが聞きたいですよ。見たら池の中にどんどん入って行ってたんですよ!死にたいんですか!」
「いや…そーゆう訳じゃ…ごめん」
奏に威圧され優は小さくなった。
「とにかく出ましょう。歩けますか?」
「うん…」
シュンとなったまま優は奏に手を引かれ池を出る。
「ひとまず村に戻りますよ」
奏は短く言うと優の腕を掴んだままズンズン歩いていく。
優はなされるまま無言でついて行った。
2人が家に戻ると、中には茜と連がいた。
「おう、おかえりって何でびしょ濡れなんだ、お前ら?」
目を丸くし茜は2人に走りよった。
「僕もよくわからなくて」
奏はそう言うとチラッと俯いている優を見る。
「村の外れに大きな池があるんですが、そこを探索していたら月島先輩がいきなり池に入りはじめて」
奏は茜から優に説明を求めるように視線を流す。
「何があったんだ?」
「えっと…池のところに女の子がいて…」
「女の子って写真のか?」
優は茜に首を振って見せた。
「歳格好が違ったから別の子だと思う。その子が泣いていたから声をかけたら目の前が真っ暗になって…気づいたら池に入ってるのを高田さんに止められてて…」
最後はゴニョゴニョと言う。
「お前はその子を見たのか?」
連は奏を見ると、奏は首を横に振った。
「いや、僕が見た時には誰もいなかった」
部屋に沈黙がおりた。
「とりあえず着替えてこい。もーすぐ夕飯だぞ」
「うん。あの…高田さん」
優は顔を上げる。
「巻き込んでごめん。助けてくれてありがとう」
「いえ無事でよかったです」
そう言い奥の部屋に奏は歩いて行く。
優は申し訳ない気持ちで一杯になりながら着替えた。
しばらくすると鈴奈と沙綾香が戻ってきて、茜と話をしているのが聞こえる。
(はぁ。また変人って思われちゃうな)
ため息をつき優は部屋を出ると、沙綾香と鈴奈が優に視線を向けた。
気まずそうに優がうつむくと、近づいてきた沙綾香が優を抱きしめた。
「えっ?!ちょっ!湯島さん?!」
「無事でよかった……」
驚いた表情をする優にボツりポツリと沙綾香は呟いた。
(そっか…そうだよね。大塚さんのことがあったから余計…)
優は沙綾香の背中をポンポンと叩いた。
「うん。心配かけてごめんね」
ぎゅっと余計に優の服を掴む手に力が入った。
その時、トントンとノックされ全員の視線がそちらに向く。
「夕飯の支度が整いました」
そのような声がドアの向こうからした。
「だとさ。続きは帰ってきてからにしようぜ」
「だね」
明るく言う連に鈴奈は続けた。
全員が夕飯を振舞ってくれる所に行くと、そこにはいつもより豪華な料理が並んでいた。
「本日は祭りの前日祭として、いつもより豪華な料理をご用意させていただきました。」
女性がニコニコと言うと、6人は
「わぁ」と声を上げる。
「そういえば、お祭りについて知らないんですが、聞いてもいいですか?」
食べる手を止め鈴奈が尋ねると、側にいた老人がニコニコと頷いた。
「えぇ。もちろんです。明日の祭りは我々が信仰していますロナウナ様に供物を捧げ今年の豊作の感謝と来年の繁栄と豊作を願う祭りなんですよ」
「へぇ。そうなんですね」
「えぇ。祭りでは舞なども奉納するんですよ」
ニコニコと笑みを浮かべながら老婆が説明をした。
「さて、祭り前ですので今日は特殊な飲み物をご用意させていただきました。宜しければお召し上がりください」
ニコニコと村長が言うと、6人の前に金色の器が置かれた。
中には甘い香りがする透明な液体が注がれていた。
「ありがとうございます」と口々に言うと6人は、グラスに入った飲み物を口にした。
果実の甘さが口に広がるが時々、舌に残るような苦味がきた。
(なんか独特だなぁ)
その苦味に顔を顰めた時、優の耳そばで少女の声がした。
「お姉ちゃん!ダメ!」
(えっ?)
そう思った時、グニャリと視界が歪み強烈な眠気が襲う。
(なに……これ)
途切れゆく意識の中でたくさんの大人たちのニヤついた顔を見た。
(くそっ!また……)
そのまま優の意識は遠のいた。
「お姉ちゃん!起きて!起きて!起きないとみんなが死んじゃうよ!」
泣きそうな少女の声に優はすーっと意識が覚醒していく。
まだぼんやりとした意識の中、まるで金縛りにあっているかのように動かない体を誰かに、かつぎ上げられていることに気づく。
「ロナウナ様。今年の供物でございます。どうか我らに恵みと繁栄をお与えください」
その多数の人が詠唱する声のあとに優の体は宙に放り投げられ、そのまま水しぶきをあげて水の中に落ちた。




