ザラ ①
第12話 ポルターガイスト現象
(すっかり遅くなっちゃった)
優は、森から村まで案内してくれた村長が村人に用意させた部屋に向かっていた。
(いやぁ、食べ過ぎちゃった。みんな先に部屋に戻ってお風呂の支度してるって言ってたけど、先に行っちゃったかなぁ。やだなぁ、場所よくわかってないのに)
表情を曇らせると、優は泊まらせてもらっている家の扉を開けた。
明るい笑い声が迎えると思っていたが、それとは裏腹に、室内は真っ暗でシーンと静まり返っていた。
(あれ?先にお風呂に行っちゃったのかな?)
頭に手をあてると、クルッと背を向け部屋をあとにしようとした。
…その時、カタカタと備え付けてあったクローゼットが鳴る音がした。
「えっ?」
振り返った優の目の前を、枕や棚に置いてあった本などが飛び交った。
「っ!」
悲鳴にならない悲鳴をあげ、優は恐怖に目を大きく見開き、顔をひきつらせながら慌てて部屋を飛び出した。
「ちょっと優!どこ行くの!」
背後から聞き覚えのある声に優が振り返ると、そこには不思議そうな顔をした5人が立っていた。
優はフラフラと鈴奈に近づき鈴奈の両肩を掴み俯く。
「鈴奈ぁ」
「なに?なに?!どーしたの?!」
あまりにも泣きそうな親友の声に鈴奈が驚いていると、優は顔を伏せたまま震える手で部屋の中を指差す。
「なに?部屋がどうかしたの?」
震えて何も言わない優に5人は顔を見合わせた。
「開けますよ?」
奏が取っ手に手をかけ全員を見る。
鈴奈の背後に優が隠れる中、奏はドアを開けた。
先導して奏と蓮が中に入り、持っていたカンテラで部屋の中を照らした。
「ん?何も…ないぞ?」
「えっ?!」
鈴奈の後ろからひょこっと出てくると、優は部屋を見渡した。
部屋の中は変わらず、枕は布団のように床にひく寝具の上に置かれ、あれだけ飛び交っていた本はきちんと棚に置かれていた。
「なん…で?」
「寝ぼけてたのか?」
「寝てないよぉー。えっ?…えー」
からかうように言う茜に優は頬を膨らませて見せると、首を傾げる。
その時。
「どうかされましたか?」
「「ぎゃぁぁぁぁ!」」
全員が悲鳴をあげ、振り返るとそこには村長がキョトンとした表情で立っていた。
「おや、驚かしてしまいましたか?」
「あ…いえ…どうされました?」
アワアワと鈴奈は思わずオウム返しに聞き返した。
「いえ、風呂の用意ができましたので、それをお伝えに」
「あっ…あぁ。ありがとうございます」
鈴奈は頭を下げた。
「それから」
そう続け翁の面のような笑みを浮かべた。
「明日は村の手伝いをしてくださるようで」
「あ、まぁタダで泊めていただくのは申し訳ないので」
鈴奈が言うと村長の笑みが深くなった。
「それはありがたい。それではよろしくお願いします」
頭を下げ村長は部屋をあとにした。
「あの人本当に急に湧いて出てくるよな」
「あぁびっくりしたぁ」
頭に手を置き、入口に視線を向ける蓮に続き、沙綾香は胸に手を当て村長の去った入口を見つめポツリと言う。
「ホントにさぁぁぁ!寿命が縮まったよぉ。もー!」
「本当だね」
ヘナヘナと座り込みキレ散らかす優の横で鈴奈はクスクスと笑った。
「さっ、お風呂に行こう」
各々、話をしながら部屋を出ていく背後に、小さな少女が立っていたことに誰も気づかないまま扉は閉められた。
~次の日~
(うぅー。結局、昨日は寝れなかった)
ふわぁと優は、盛大に欠伸をする。
「眠そうだねぇ」
優の横で鈴奈は苦笑いを浮かべた。
「今日は…寝てる?」
心配そうに提案する鈴奈に優は顔を顰めた。
「あの部屋に1人は絶対やだよぉ」
「ビビってるのか?」
からかう茜に優は少し怒ったように
「あのねぇ、あなたも経験すればわかるよ!あの恐怖!」
心底ゾッとした表情の優に全員ざ苦笑いした。
「まっ、無理はするなよ。んじゃ、俺はあっちで畑仕事を手伝ってくっから!」
ポンと優の背中を叩き茜は手をあげ走って行く。
「僕も」
そう言うと奏は手を挙げた。
「了解。また大塚さんがいなくならないよーに首根っこ掴んどいてね」
ニッと優は奏に笑って見せた。
奏もふっと笑みを浮かべ
「わかりました。大塚先輩にも伝えておきます」
「えっ、やめて…」
まるでコントみたいな2人の会話に鈴奈はクスクスと笑いをこぼす。
「まぁ、気をつけて」
「はい」
鈴奈に頷くと奏は、茜を追いかけていった。
「2人は?」
鈴奈は沙綾香と蓮を見る。
「俺は屋根の修理っす」
「私はおばあちゃんの家事のお手伝いかな」
「了解。気をつけて」
2人は頷くとお手伝いをする場所に歩いていく。
「そーゆう鈴ちゃんは?」
「あたしは草刈り」
「懐かしい。よく施設でやったよね。鈴ちゃん丁寧にやってたなぁ」
優は懐かしむように目を細める。
「そーだっけ?優は?」
「私はチビちゃんのお守り」
「優らしい」
鈴奈は笑みを浮かべた。
「んじゃ、ホント無理しちゃダメだからね」
「うん。ありがとう。鈴ちゃんもね」
優はニコリと笑うと鈴奈とわかれ、自分の持ち場にむかった。
そこからは子供たちの相手をして、怖かったこともすっかり頭から抜け気がつくと、空は橙色に染まっていた。
「はぁい。ママ、もうちょっとで来るよー」
家の外で赤ちゃんを背中に背負い小さく揺すりながらあやしていると、1人の老人が目の前を通った。
「おや、見ない顔だね」
「あ、こんにちは。ちょっとお祭りまで村にお邪魔させていただいているんです。」
「ほぉ、君が」
老人は目を丸くすると優をまじまじと見た。
「他にも5人いるそうだね」
「あ、はい」
質問の意図がわからず、気の抜けた返事を優は返した。
「そうかそうか。今年は豊作になりそうだ」
「えっ?」
「それじゃぁ」
ホクホク顔で離れていく老人の背中を、何とも言えない不気味さを感じながら優は見送った。




