山道 ②
第12話 山の中の翁
「早くしろ!」
仏頂面で歩く優の背中を山賊の男は強く押し歩かせた。
「座れ!」
山賊は優の肩を掴み他の仲間たちの隣に座らせると、全員の顔を見渡した。
「これからお前らには着替えてもらう」
「はぁ?私たちレディーなんですが?」
荒い口調で言う優に山賊はキョトンとしていた。
「れ…なんて?」
「女だから配慮しろってことだよ」
不機嫌そうな声色で言う茜に山賊はニヤリと笑った。
「お前らは商品なんだ。そんな権利がお前らにあるわけないだろ。」
そして優を睨みつけた。
「文句言うやつはこの場で痛い目を見るぞ」
「やれるもんならやってみなよ」
優は男を挑発するように見上げ片頬を上げる。
「んだと?」
山賊の額に青筋が立った。
「こっのぉ!馬鹿にしやがって!」
ナイフを手に襲いかかってくる山賊に優はサッと立ち上がり、ナイフを持っている男の手を対角線の肩の方に叩き、がら空きになった股間を蹴りつけた。激痛で身をかがめた男の頭に優は見事なかかと落としを喰らわせた。
そのまま山賊はピクリとも動かなくなった。
「皆さん!逃げてください!」
振り返り優が叫ぶと、馬車に乗っていた乗客はまるで、硬直が解けたように逃げだした。
「この野郎!」
逃げる乗客を追いかけようとする山賊の前に鈴奈はサッと立ち塞がり、目の前に立つ男の腕を掴み、ぐるりと身を翻すと、そのまま背後から襲ってきたもう1人の山賊の頭に蹴りを入れた。そして、腕を持っていた男を、投げ飛ばした。
脳震盪を起こしたのか、頭を蹴られた男も投げ飛ばされた男も動かなくなった。
「ナイッスー!ありがとう鈴ちゃん」
その場に倒れ動かなくなった山賊の前で鈴奈はにっと笑った。
そこにワラワラとまるで砂糖に群がるアリのように、大量の山賊が剣を手に走ってきたが、いきなり服のあちこちが燃え出した。
「あぢぢぢぢ!!」
男たちは悲鳴をあげて地面を転がりだした。
優が紗綾香に視線を向けると、ニコッと笑みを浮かべイタズラっぽくピースを優にした。
優は笑みを浮かべ紗綾香にピースを返した。
「今です!先輩たちも森に!」
奏の声を合図にその場にいた全員が一斉に追いかけてくる山賊に背を向け、森の中に向かって走った。
「おいコラ!待ちやがれ!」
「風妃!つむじ風でアイツらを吹き飛ばして」
風妃の起こした竜巻に巻き込まれた山賊たちは「ギャァァァ」と森に木霊すほどの悲鳴をあげながら吹き飛ばされていった。
吹き飛ばされたのを確認した優が振り返ると、前を走っていたはずの5人はいなくなっていた。
「うそっ…」
「いたぞー!」
背後からする山賊の声に優は、走り出した。
(みんなどこに行ったの?)
不安で半べそになる優の前にフレーミアが現れた。
「ついてこい」
フレーミアの案内で走っていた時、優は何かに足を捕まれ崖の下に引きずり落とされた。
「きゃっ!うぐっ!」
優があげた悲鳴は、横からのびてきた手で口が塞がれ、くぐもった声に変わった。
涙が溜まる瞳を向けると、浅く横に長い窪みのようになった小さな空間に蓮が優の口を塞ぎながら立っていた。
その横で鈴奈が口に指を当て静かにするように示した。
優は頷くと「(他のみんなは?)」と手話で鈴奈に尋ねた。
「(大丈夫。全員いるよ)」
鈴奈が手話で返したその時、頭上から足音がした。
「あいつらどこ行った!」
頭の上の道から山賊の声がする。
「この下は?」
山賊が持っていたカンテラの光が息を殺す優の足元数センチ手前で止まる。優の心臓が飛び出しそうになっていた時、ガザガサと元きた道の方から草が鳴る音がした。
「あっちか!」
「探せ!」
声と足音が遠ざかると、全員がホッと息をついた。
「もう大丈夫じゃ。やつらは騙されて遠くに行ったぞ」
ふわりと優の前に現れた風妃の言葉に優はホッと肩の力を抜いた。
「もう大丈夫だって」
優はみんなの方を見た。
「なんでそんなことがわかるんですか?」
目を細める奏に優は「それは…」と言い風妃のことを話そうと口を開きかけるが、船で見た夢を思い出しその口が重くなってしまう。
ジッと優を見た蓮はヒョイと上の道によじ登った。
「なにやってるんですか?!」
驚く奏の目の前で蓮は当たりを見渡した。
「こっちは誰もいないぞ」
蓮の言葉に全員がホッとした時
「おや、こんなところに人がいるなんて珍しい」
全員か思わず悲鳴をあげ振り返ると、そこには少し腰が曲がった細目の老人が立っていた。
「いやぁ、びっくりさせてしまったなら申し訳ない。なんせ、滅多にここには人が来ないので珍しくてね。どうかされたんですか?」
「あ…まぁ」
茜はみんなに視線を向ける。
「山賊に…追われて」
沙綾香が続けると、老人は目を細めた。その顔はまるで翁の面を彷彿させた。
「ほぉ、それは難儀でしたなぁ」
そう言い老人は空を見上げた。
「そろそろ日が暮れてしまいますから、良かったら私たちの村に来て休んで行ってはどうでしょうか」
すると蓮は顔を少し曇らせた。
「どうかされましたか?」
怪訝そうにしている老人に蓮は頭に手を当てて見せる。
「あ…いや、そうやって招待された街で酷い目にあって」
それを聞き全員が苦い顔をした。
「ほぉ。それはそれは。私たちは皆さんを歓迎しますよ?それにもう少ししたら祭りもあります。そちらも見ていってはどうですか?」
「祭り」という言葉に、キランという効果音が入りそうなほどに優は目を輝かせた。
「祭り?」
「あぁーあ、食いついちゃったよ」
鈴奈は嘆くように言う。
「まぁ祭りはともかく、火もつけられないこの状況では色々と不便ですから、お邪魔するのもありですよ」
「なんで火がダメなの?」
首を傾げコソッと鈴奈に聞くと、茜が優の頭を小突く。
「火をつけたら煙や明るさで山賊の奴らに気づかれるだろーが」
優は、グーにした左手で右手の手のひらをポンと叩いた。
「あぁ!たしかに!」
納得する優に茜は呆れたようにため息をつく。
「さぁさ、こうしてるうちに日が沈んでしまいました。急ぎましょう。こうしてる間にも獰猛な動物が来るかもしれませんし。さぁ」
押し切られた6人は、老人のあとについて薄暗くなった森の中を歩きはじめた。
暗い森をしばらく歩くと、梯子をのぼり家の中に入るような造りの家が立ち並ぶ小さな村が見えてきた。
「さぁさぁ。こちらに」
ニコニコと老人は村の中に6人を案内して行く。
優はふと茜の足が止まったことに気づき振り返った。
「どうしたんです?」
困ったような表情を浮かべ頭に手をあてた茜に優は近づいた。
「いや、なんか女の子が行くなって服つかまれちって」
「女の子?」
優が茜の背後を見るが、女の子の姿はなかった。
「…誰も…いませんよ?」
優の言葉に驚いた表情を浮かべ、茜は振り返り、当たりを見渡した。
「おっかしいなぁ。さっきまでいたのに」
茜は不思議そうに頭を掻いた。
「茜ぇー、優ちゃぁん」
立ち止まりこちらを見ている4人を優は振り返った。
「あ、はぁい!今行きまーす」
優は茜に視線を戻した。
「行きましょう」
「…だな」
数秒考えるが、すぐに立ち上がり茜は優と一緒に仲間の輪に加わった。




