山道 ①
第10話 占いと不吉な山道
鉛を張ったような曇り空。
今にも雨が降りそうだ……。
ドン!と複数の手で背中が押される。
空と鉄の板が交互に見え、やがて優は泣いている空を見上げた。
クスクスと言う笑い声に視線を向けるとそこには……茜、沙綾香、鈴奈、蓮、奏がゲスな笑みを浮かべ立っていた。
「?!」
「なんであんただけ違うのさ」
鈴奈の無機質な声が優の耳から入り、胸に刃のように突き刺さる。
優はそこで飛び起きしばらく肩で息をする。
「はぁ…最悪」
ため息混じりに低く呟き、辺りを見渡した優は、5人がいないことに気づいた。
(…みんな、どこ行ったんだろ。甲板かな)
まだダルい体を起こし甲板に行くと、そこには人だかりができていた。
(なんだろ…)
背伸びをしながら、先を見ると人だかりの中に鈴奈を見つけた。
やがて散り散りになって行く人だかりの中から鈴奈たちが踵を返しこちらに歩いてきた。
「あ、優。もう終わったから戻るよ」
「う…うん」
そのまま鈴奈に背中を押され優はみんなと一緒に部屋に戻った。
「で、何があったの?」
「ほら、さっきあのタコに船が襲われたでしょ?」
「う、うん」
頷く優に鈴奈は続けた。
「あれでこの船がかなりダメージを受けたみたいで、走行は厳しそうだからアダーニャっていう港で停泊するんだって」
「その後は?また新しい船で行くの?」
「それが船は用意できないらしいから、馬車で行くんだって」
それを聞き優は顔を顰める。
「えー。また酔いそうな物に乗るのかぁ」
「贅沢言わない」
苦笑いを浮かべた鈴奈は屈み、グッと鈴奈の顔を優に近づけ、おでこをくっつける。
「んー。まだ熱いね。体調悪いと余計に酔いやすいよ。」
「そんなすぐに着くの?」
「うん。数時間で着くって。それまで休んでな」
「うん」
優は微笑むと横になり目を閉じた。
しばらくして、優は揺り起こされ、ダルい体を引きずりながらみんなと共に船をおりた。
アダーニャ。
そこは賑やか港街で、多くの人が行き来し、港近くにある市場は賑わっていた。
アダーニャに着くと優はキラキラした瞳で辺りを見渡した。
「うわぁ!すごーい!」
フラフラと歩いて行こうとする優の首根っこが捕まれた。
「おい!コラ!勝手にどっか行くなよ?迷子になるぞ」
グイッと引き戻され優は茜に頬を膨らませて見せる。
「えー、だって楽しそうじゃんかぁ」
奏は、苦笑いを浮かべる。
「でも食料は少し足しておいた方がいいので少しだけこの辺りを見て回りますか?」
「やったぁ!」
優は、子供のように両手を空に上げ、はしゃぐと駆け出した。
お客を呼ぶお店の人の声、どこからかする、美味しそうな匂い。
好奇心が満ち溢れる市場を見て回っていると
「おや、そこの可愛らしいお嬢さん、ぼっちゃんたち。ちょっといいかい?」
足を止め、声がした方を見ると、細い脇道に白く長い髭を蓄えたボロボロの服のおじいさんが座っていた。
「ふむ、ものすごい運命を持って生まれたようだね君たちは。そこの…美人さん」
おじいさんは紗綾香を指さす。
「お主は水に気をつけるのじゃな。それから、男の子みたいなお姉さん」
次に茜を見る。
「お主は、おめでとう。開花するな」
「何にだ?」
わけがわからず顔を顰める茜に、おじいさんはニヤリと笑う。
「それからお嬢ちゃん」
まるで夏の空のような美しい水色の瞳でジッと優を見た。
「お嬢ちゃんは、魔法使いに気をつけるんじゃな」
「魔法使い?……というかお嬢ちゃんって歳じゃないよ?私は」
優は苦笑いをする。
「まぁまぁ。それからそうじゃな。お互いを信頼し自分を信じれば、君たちを襲う困難は乗り切りれるさ。頑張って」
その時、カランカランとベルが鳴る音に3人は視線を向けた。
「ロアけニート行きの馬車、まもなく出発です。乗り遅れのないよう、お願いいたします」
「もう行かないと!ありがとうございます」
優が振り返るとすでに老人はいなかった。
「えっ?えっ?」
優が慌てて路地をのぞき込むがそこは行き止まりになり、おじさんの姿もなかった。
「ずいぶんと足の早いおじいさんだったのね」
「いや…それにしたって早すぎでは?」
驚き凍りついたように立ち尽くしていると、最終のアナウンスを知らせるベルの音が響いた。
「んなことより、急がないと乗り遅れるぞ!」
走りだす蓮にハッとし、沙綾香、茜、鈴奈、奏は走り出した。
しかし、走り出す5人を背に優はジッとおじいさんがいた場所を見た。
「優!」
「今行く!」
後ろから聞こえた鈴奈の声に応えると、優は振り返り走り出した。
ギリギリのところで馬車に乗ることができた6人は、馬車に揺れながら街をあとにする。
しばらく、平坦な道をガタガタと馬車に揺られ、優はひらりと1番後ろの布をめくり、緑溢れる風景を見ていた。
かなりの時間が経つと、馬車は少し傾きはじめた。見ると、いつの間にか山道を走っていた。
(やばい、ちょっと飽きてきたなぁ)
ふわぁと優があくびを噛み殺していると、乗り合わせた数名の男性が目配せをした。そして、おもむろにバイオリンを出し軽快なメロディーを奏ではじめる。すると、目配せをした他の人たちも太鼓やギターなどを取り出し、低い太鼓の音とギターの音が重なるようにメロディーやリズムを奏だし、やがて異国情緒溢れる音楽を作り出して行った。
(うわぁ!素敵!)
優は曲に合わせて手拍子をする。同じように鈴奈、沙綾香、奏も手拍子をし、蓮は曲に合わせてトントンと小さく足でリズムを刻んだ。
曲が盛り上がり、楽しい雰囲気に馬車内が包まれた時、馬車の壁にしていた布にブスブスと矢が刺さり出した。
悲鳴が上がり、全員が頭を庇うように身を低くする。
「なんだ?!」
「わかりません!見てきます!」
奏は茜に答えると低く屈んだまま前の方まで行った。
「何事ですか?!」
奏が運転席に顔を出すと、馬車の運転手の顔が青ざめていた。
「山賊だ!山賊がで…」
奏の目の前で、木の上から飛んできた矢が頭に刺さった運転手はそのまま頽れ、馬車から滑り落ちて行った。
「おい!」
グイッと引っ張られた奏の目の前を矢が飛んで行く。そして奏はそのまま馬車の中に入れられた。
「あ…ありがとうございます」
呆然としながら奏が言うと、蓮はプイッとそっぽを向き奏の首から手を離した。
「誰か!誰か運転できる人はいないのか?」
茜の言葉に全員が、俯いたり、視線を逸らした。
重い沈黙が数秒続いた時、馬車が大きく揺れピタリと止まった。
そして、ガバッと扉が開くと紫のバンダナをした男が現れた。
「降りろ!」
一同が顔を見合わせる。
「早くしろ!死にてぇのか!」
怒りのこもった男の声に全員が馬車をおりはじめた。
優が睨みつけると、男はつかつかと優に近づいた。
「んだ!!早くしろ!」
男は優の背中を強く押した。
優は歯を食いしばり睨みつけると、みんなのあとに続き馬車をおりた。
鉛を張ったような曇り空。
今にも雨が降りそうだ……。
ドン!と複数の手で背中が押される。
空と鉄の板が交互に見え、やがて優は泣いている空を見上げた。
クスクスと言う笑い声に視線を向けるとそこには……茜、沙綾香、鈴奈、蓮、奏がゲスな笑みを浮かべ立っていた。
「?!」
「なんであんただけ違うのさ」
鈴奈の無機質な声が優の耳から入り、胸に刃のように突き刺さる。
優はそこで飛び起きしばらく肩で息をする。
「はぁ…最悪」
ため息混じりに低く呟き、辺りを見渡した優は、5人がいないことに気づいた。
(…みんな、どこ行ったんだろ。甲板かな)
まだダルい体を起こし甲板に行くと、そこには人だかりができていた。
(なんだろ…)
背伸びをしながら、先を見ると人だかりの中に鈴奈を見つけた。
やがて散り散りになって行く人だかりの中から鈴奈たちが踵を返しこちらに歩いてきた。
「あ、優。もう終わったから戻るよ」
「う…うん」
そのまま鈴奈に背中を押され優はみんなと一緒に部屋に戻った。
「で、何があったの?」
「ほら、さっきあのタコに船が襲われたでしょ?」
「う、うん」
頷く優に鈴奈は続けた。
「あれでこの船がかなりダメージを受けたみたいで、走行は厳しそうだからアダーニャっていう港で停泊するんだって」
「その後は?また新しい船で行くの?」
「それが船は用意できないらしいから、馬車で行くんだって」
それを聞き優は顔を顰める。
「えー。また酔いそうな物に乗るのかぁ」
「贅沢言わない」
苦笑いを浮かべた鈴奈は屈み、グッと鈴奈の顔を優に近づけ、おでこをくっつける。
「んー。まだ熱いね。体調悪いと余計に酔いやすいよ。」
「そんなすぐに着くの?」
「うん。数時間で着くって。それまで休んでな」
「うん」
優は微笑むと横になり目を閉じた。
しばらくして、優は揺り起こされ、ダルい体を引きずりながらみんなと共に船をおりた。
アダーニャ。
そこは賑やか港街で、多くの人が行き来し、港近くにある市場は賑わっていた。
アダーニャに着くと優はキラキラした瞳で辺りを見渡した。
「うわぁ!すごーい!」
フラフラと歩いて行こうとする優の首根っこが捕まれた。
「おい!コラ!勝手にどっか行くなよ?迷子になるぞ」
グイッと引き戻され優は茜に頬を膨らませて見せる。
「えー、だって楽しそうじゃんかぁ」
奏は、苦笑いを浮かべる。
「でも食料は少し足しておいた方がいいので少しだけこの辺りを見て回りますか?」
「やったぁ!」
優は、子供のように両手を空に上げ、はしゃぐと駆け出した。
お客を呼ぶお店の人の声、どこからかする、美味しそうな匂い。
好奇心が満ち溢れる市場を見て回っていると
「おや、そこの可愛らしいお嬢さん、ぼっちゃんたち。ちょっといいかい?」
足を止め、声がした方を見ると、細い脇道に白く長い髭を蓄えたボロボロの服のおじいさんが座っていた。
「ふむ、ものすごい運命を持って生まれたようだね君たちは。そこの…美人さん」
おじいさんは紗綾香を指さす。
「お主は水に気をつけるのじゃな。それから、男の子みたいなお姉さん」
次に茜を見る。
「お主は、おめでとう。開花するな」
「何にだ?」
わけがわからず顔を顰める茜に、おじいさんはニヤリと笑う。
「それからお嬢ちゃん」
まるで夏の空のような美しい水色の瞳でジッと優を見た。
「お嬢ちゃんは、魔法使いに気をつけるんじゃな」
「魔法使い?……というかお嬢ちゃんって歳じゃないよ?私は」
優は苦笑いをする。
「まぁまぁ。それからそうじゃな。お互いを信頼し自分を信じれば、君たちを襲う困難は乗り切りれるさ。頑張って」
その時、カランカランとベルが鳴る音に3人は視線を向けた。
「ロアけニート行きの馬車、まもなく出発です。乗り遅れのないよう、お願いいたします」
「もう行かないと!ありがとうございます」
優が振り返るとすでに老人はいなかった。
「えっ?えっ?」
優が慌てて路地をのぞき込むがそこは行き止まりになり、おじさんの姿もなかった。
「ずいぶんと足の早いおじいさんだったのね」
「いや…それにしたって早すぎでは?」
驚き凍りついたように立ち尽くしていると、最終のアナウンスを知らせるベルの音が響いた。
「んなことより、急がないと乗り遅れるぞ!」
走りだす蓮にハッとし、沙綾香、茜、鈴奈、奏は走り出した。
しかし、走り出す5人を背に優はジッとおじいさんがいた場所を見た。
「優!」
「今行く!」
後ろから聞こえた鈴奈の声に応えると、優は振り返り走り出した。
ギリギリのところで馬車に乗ることができた6人は、馬車に揺れながら街をあとにする。
しばらく、平坦な道をガタガタと馬車に揺られ、優はひらりと1番後ろの布をめくり、緑溢れる風景を見ていた。
かなりの時間が経つと、馬車は少し傾きはじめた。見ると、いつの間にか山道を走っていた。
(やばい、ちょっと飽きてきたなぁ)
ふわぁと優があくびを噛み殺していると、乗り合わせた数名の男性が目配せをした。そして、おもむろにバイオリンを出し軽快なメロディーを奏ではじめる。すると、目配せをした他の人たちも太鼓やギターなどを取り出し、低い太鼓の音とギターの音が重なるようにメロディーやリズムを奏だし、やがて異国情緒溢れる音楽を作り出して行った。
(うわぁ!素敵!)
優は曲に合わせて手拍子をする。同じように鈴奈、沙綾香、奏も手拍子をし、蓮は曲に合わせてトントンと小さく足でリズムを刻んだ。
曲が盛り上がり、楽しい雰囲気に馬車内が包まれた時、馬車の壁にしていた布にブスブスと矢が刺さり出した。
悲鳴が上がり、全員が頭を庇うように身を低くする。
「なんだ?!」
「わかりません!見てきます!」
奏は茜に答えると低く屈んだまま前の方まで行った。
「何事ですか?!」
奏が運転席に顔を出すと、馬車の運転手の顔が青ざめていた。
「山賊だ!山賊がで…」
奏の目の前で、木の上から飛んできた矢が頭に刺さった運転手はそのまま頽れ、馬車から滑り落ちて行った。
「おい!」
グイッと引っ張られた奏の目の前を矢が飛んで行く。そして奏はそのまま馬車の中に入れられた。
「あ…ありがとうございます」
呆然としながら奏が言うと、蓮はプイッとそっぽを向き奏の首から手を離した。
「誰か!誰か運転できる人はいないのか?」
茜の言葉に全員が、俯いたり、視線を逸らした。
重い沈黙が数秒続いた時、馬車が大きく揺れピタリと止まった。
そして、ガバッと扉が開くと紫のバンダナをした男が現れた。
「降りろ!」
一同が顔を見合わせる。
「早くしろ!死にてぇのか!」
怒りのこもった男の声に全員が馬車をおりはじめた。
優が睨みつけると、男はつかつかと優に近づいた。
「んだ!!早くしろ!」
男は優の背中を強く押した。
優は歯を食いしばり睨みつけると、みんなのあとに続き馬車をおりた。




