グナーゲン海 ①
第9話 海での再会
港町、ラックル。
たくさんの船が港に繋がれ、多くの人が忙しなく船の前を行き来したり、荷を乗せたりしている。
「ここまでで本当に大丈夫か?」
たくさんの船の中の1つの前で、ファルべは心配そうに6人を順々に見る。
「はい、ありがとうございます」
鈴奈は微笑みながら頷く。
「そっか。気をつけていけよ」
6人はニコニコ手を振るファルべに別れをつげ、船の中に入った。
ファルべに手配してもらった部屋に6人が腰を落ち着けしばらくすると、船はボーッと汽笛を鳴らし水の上を滑りはじめた。
~数時間後~
優は激しい吐き気と戦いながら船から身を乗り出していた。
「大丈夫?」
「大丈…」
鈴奈に背中をさすってもらっていたが、青くなった顔を更に青くし、優はまた船から身をのりだした。
鈴奈は苦笑いしながらその背中をさする。ふと、顔を上げ辺りを見ると、茜と奏は同じ様に身をのりだしたり、甲板でグッタリしていた。
「こりゃ、大変な旅になりそーね」
苦笑いしながら鈴奈は優の背中を擦る。
「…なんでだろ。今までフェリーとか乗ったことあるけど酔ったことなかったのに…うっ!」
また優は船から顔を出す。
「まぁ、かなり揺れてるからねぇ」
「あと、三半規管が弱いと寄ってしまうらしいんですが、船がどのように揺れるか予測できない人も寄ってしまうらしいですよ」
そう言い、歩み寄ってきた奏は優に水が入った木の水筒をわたした。
「あ、いいよ」
優はやんわりと奏が差し出した水筒を押し返した。
「飲んだらまた吐いちゃいそうだから」
青ざめた顔に優は笑みを浮かべる。
「飲んだほうがいいですよ。何回も、もどしてしまうと、脱水症状になってしまうって湯島先輩が」
奏は茜と蓮の背中をさする沙綾香に視線を向けた。
「すごいな…湯島さんは…物知りだなぁ」
そう言い優は水筒を受け取り水を飲んだ。
「ご家族がお医者さんなんだそうですよ」
「なるほど…」
感心していると、再び吐き気が込み上げてくる。
「ごめん、ちょっと私、限界だから…寝てくる」
フラフラと優は自分たちが宛てがわれた雑魚寝する部屋に歩いていき、床に横になるとそのまま毛布を被り沈み込むように眠りに落ちていった。
しばらくして、ふと意識が浮上する。周りを見ると、近くで沙綾香、茜、鈴奈がスースーと寝息を立てて寝ている。そして、ドア横の壁に蓮が寄りかかり、コクリコクリと船を漕いでいる。
優は自分がかけていた毛布を蓮にかけた時、グーッとお腹が鳴った。自分の荷物からリンゴを取り出し、そーっと部屋を抜け出し甲板へ出た。
甲板では、ポロンポロンとギターの音と、誰かの甘い歌声が聞こえてきた。
見ると、奏がギター片手に優も聴き覚えがある、元の世界の曲を弾きながら口ずさんでいた。
その恋を懐かしみ悔やむ曲を思わず歌いだす優に奏は驚いた表情をするが、そのまま弾き続けた。
2人は交互にハモリながら最後まで歌うと、互いに顔を見て笑みを浮かべる。
「すごいね」
「そう……ですか?」
不思議そうに見る奏に優は頷いて見せた。
「うん。ギター弾けるなんてかっこいいじゃん」
「ありがとうございます」
照れるように優に奏が歯に噛んだその時、カンカンカンと激しく鳴る鐘の音に驚き2人は視線を向けた。
「怪物だぁ!怪物が出たぞー!」
2人は顔を見合わせた。
「っるせぇな」
優が声の方に視線を向けると、ドアが開き茜がぶつくさと文句を言いながら目を擦りながら出てきた。
「何事だよ?」
それに続き茜と蓮と鈴奈も甲板に出てくる。
「おい…」
恐怖の色を顔に貼り付けた茜は海を指さす。
奏と優が振り返ると、そこには巨大なタコが腕をくねらせ今にも船に掴みかかろうとしていた。
「またアイツかよ!」
茜がボソリとこぼす。
「攻撃方法は?」
奏が顔を青ざめた乗組員に詰め寄る。
「んなもんあるわけないだろ!客船だぞ!」
そう言い、乗組員は走り去って行った。
クラーケンはその巨大な腕を船に叩きつけた。グランと船が大きく揺れ、5人はバランスを崩し片足をつく。
「おい!子供が落ちたぞ!」
その声に5人が海を見下ろすと、子供が今にも沈みそうになっていた。
(やばい…)
反射的に飛び込もうとする優を蓮は腕を前に突き出し止めると、海に飛び込んだ。
驚き優が海を見ると蓮は子供に泳いでいき子供を抱えあげた。
(風紀、2人を船に戻せる?)
「なに、造作もない」
風紀は不安そうな表情を浮かべる優にニヤリと笑うと、ヒョイと手を煽った。すると2人の横で生まれた竜巻は2人をふわりと持ち上げ、そのまま船まで運び甲板におろした。
「ターシャ!」
「お母さん!」
駆け寄った母親は子供を力いっぱい抱きしめた。
「やるな」
茜は笑みを浮かべると、蓮の背中をポンポンと叩いた。
その時、ふわぁと呑気なあくびをしながら沙綾香が甲板に出てきた。
「どうしたの?」
「起きてくんの遅せぇよ!またクラーケンが」
茜の言葉を遮るように、メリメリという音と共にクラーケンの腕が絡まった帆は1本が折れ大きな音を立てて落ちた。
驚いた表情でクラーケンを見ると沙綾香は足早に部屋に入り持ってきていた弓矢を持ってくると構えた。
「フレーミア」
つぶやくと、筋肉質な男が現れ、弓につがえた矢に火が灯る。引き絞られた弦から矢が放たれクラーケンの足に突き刺さる。熱さに驚いたのか、キーンとまたあの金属を叩いたような甲高い音を立て、クラーケンは甲板で唸らせていた腕を上げる。
「いまだ!帆を張れ!」
「しかし、風が!」
見上げる帆に当たる風は、大きな客船を動かすにはあまりに頼りなさすぎる。
その時、クラーケンが再び腕を伸ばしてきた。
「風紀、邪魔して!」
風紀の放った風の刃はクラーケンの足の先を切り落とす。
キーンと音とと共にクラーケンは身をよじる。
つかさず沙綾香は、クラーケンの目に向かって火のついた矢を放った。
再びキーンと耳をつく音がし、クラーケンは腕をくねらせながら下がる。
「いまだ!」
「風紀!」
叫ぶ奏に重ねるように優が叫び横にいる風紀を見た。
風紀はふうと帆に息を吹くと、帆は膨らみ、船は今までとは比べ物にならないほどのスピードで動きだした。
みるみるクラーケンとの距離を離し、やがて見えなくなった。




