プロローグ
二十代ぐらいの黒髪を短く切りそろえた少女が、オレンジに近い茶髪の青年に抱き起こされている。
冷たい雨に濡れる少女の片腕と片足はなく、もう片方の腕も動かないのかダラリと地面についていた。
「おい⋯」
今にも泣きそう…いや、もうすでに泣いているのに降りしきる雨が青年の涙を隠しているのかもしれない。くしゃりと歪めた顔で青年は自分の足を枕に横たわる少女を見下ろした。
「おい、しっかりしろ!今、救護隊が来るからな」
青年は震える声で少女を励ますと、救護隊がいるであろう方向に視線を向けた。しかし、そこにはうちつける雨に霞む景色しかなかった。
「あぁ⋯」
短く感嘆の声をあげる少女に青年はハッとすると、少女が見つめる空を見上げた。
そこには、5つの細い光の粒が柱のように天へ上がっていた。
「そっか⋯」
そうつぶやき少女はそっと目を閉じた。
その時、少女の体からキラキラとした粒がうまれ始めた。
「ダメだ!しっかりしろ!」
その意味を知り叱責する青年に少女はまっすぐ視線を向け、青年に微笑みかけた。
「ありがとう⋯ございます」
やがて少女の体は光の粒に変わり、秋の風に吹かれて空へのぼった。
まだ止まない雨を蓄える地面には、人間の等身大の白い木の人形が秋の雨に濡れていた。