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エヴェリーナ商会の指輪たち(Amateria/じょーもん)  作者: じょーもん


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10/13

ある英雄の指輪

「天よ! 我に七難八苦を与えたまえ!」

 と言ったら、

「じゃあプレゼントしてあげる」

 魔女に指輪を与えられた。

「その指輪はあなたの時間を狂わせるわ。さぞ苦難に満ちる旅路でしょうね」

 しかも外れなくなった。

「私のもとへたどり着いてみなさい。そうしたら外してあげる」


 男は魔女を探す旅の途中、思い出に溺れようとするダークエルフの女と出会った。

「夫は魔獣と相討ちになり死にました。あの人のいない世界なんて」

「ならば夫を誇るがいい。その勇者は貴様という最愛の妻を守り抜いたのだから」

 女は男の言葉に何も返せなかった。男は旅へと歩き出し、女は思い出から歩き出した。


 男は魔女を探す旅の途中、侯爵の女性と出会った。

「……あなた、どこかで会わなかったかしら」

「さて、知らんな」

 侯爵の女性は首をかしげ、男は旅を続けた。


 男は魔女を探す旅の途中、ある船上で必勝の賭博師と出会った。

「賭けに必ず勝つ! これほど素晴らしい人生があるか?」

「賭けに勝つことが定められた人生ほどつまらんものがあるか?」

 船はセイレーンに襲われ、賭博師は定められた人生を失った。男は船から落ちたが、三日後に海岸に打ち上げられた。


 男は魔女を探す旅の途中、ある芸術家と出会った。

「この世で最も美しいものを表現できないのだ。これほど苦しいことがあるか」

「貴様の言う苦しさは、餓え渇く苦痛に勝るものか?」

 芸術家は男を無視して頭を抱えた。男は芸術家を無視して旅を続けた。


 男は魔女を探す旅の途中、おそるべき夜魔の娘と出会った。

「あなた、私に跪きなさいな」

「断る」

 男は夜魔に魅了されず、一蹴した。夜魔はつまらなさそうに、月夜に去っていった。


 男は魔女を探す旅の途中、わがままな貴族の娘と出会った。

「あなた、なにか面白い話を知っているかしら?」

「通りすがりの俺に無茶振りをするわがままな娘の話はどうだ?」

 貴族の娘は怒り狂い、男は面白そうに笑いながら逃げて行った。


 男は魔女を探す旅の途中、竜を殺す剣を手にする少女と出会った。

「私に、かの竜を討つことは出来るのでしょうか」

「貴様の積み上げた力は、己が疑うほどか弱いのか?」

 男は少女の旅路の果てを見届け、去った。竜の亡骸を前に立つ少女だけが残された。


 男は魔女を探す旅の途中、竪琴を弾く旅の女と出会った。

「あなたの旅が良いものでありますように」

「その祈りは俺には不要だ」

 女の竪琴は鳥を呼び、花を咲かせ、人々を癒したが、男はそれに構わず旅を続けた。


 男は魔女を探す旅の途中、指輪職人の女と出会った。

「その指輪……変ね。今私が作ってる指輪とそっくりじゃない」

「なるほど、そういうものか」

 男は勝手に納得し、指輪職人の女は首をかしげた。


 男は魔女を探す旅の果てで、己に呪いをかけた魔女を見つけ出した。

「ひさしぶりだな、魔女よ。壮健であったか」

「ひさしぶりね、彷徨人。元気そうじゃない」

 男は鼻で笑い、魔女は言った。

「ええ、それで、あなたの旅路はどれほど苦難に満ちていたのかしら」

「くだらん」

 男の一蹴に、魔女はひどく驚いた。

「せいぜい、脚が疲れただけだ」

 男は言い放つ。

「無限に彷徨う時間の迷路。なるほど貴様の地獄はその程度か。この俺が望む七難八苦には程遠いわ阿呆が!

 たとえば石を削るとしよう。幾星霜の風雨にさらし、望む形に変わるまで待つ気か? 俺が望むのはそんな気の長い安寧などではない!

 ああ、被虐趣味と一緒にしてくれるなよ。俺は己を望む形に仕上げたいだけの、一振りの剣なのだよ。打たれて悦ぶ? 馬鹿めが、過程にいきり立ってどうする。幾千億の鍛冶の先にこそ刃の完成はあるッ! その瞬間にこそ歓喜があると知れ!

 理解したかね、魔女よ」

 そう言って歯を見せて笑う男に、魔女は呆けた顔で、やがて震えて、腹を抱えて笑いだした。

「ははッ、馬鹿はアンタだ! いまどきアンタみたいな馬鹿、神話の時代でもいるかしら!? くははッ! 理解できないわこの馬鹿! 最高よ! 暇つぶしのつもりが、まさかってところ!

 ────いいわ。あなたの望み通り。幾千億の災厄をあなたに。プレゼントしてあげる……!」

 魔女は笑い続け、男も笑った。

 いつまでも飽きることなく笑い続けた。馬鹿みたいに。


 世界中のあらゆる国、あらゆる時代で語り継がれる英雄がいるという。魔女に呪われ、無数の時間を彷徨い続ける運命にある男の物語だ。

 世界中のあらゆる土地、あらゆる民話で語り継がれる魔女がいるという。英雄を愛し、憎み、英雄に災厄を与え続ける狂った女の物語だ。


 まぁ、どっちにしろ、馬鹿馬鹿しい話ではあるのだが。


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