悪あがき
―仕組みはよく分からない。心臓はみんな同じだけ動くとかいうから、人型になる分、寿命が伸びるのかもしれない。
大福の頭の中では、そうたさんの言葉がぐるぐるしていた。
お酒を飲んで、一晩寝ても、当たり前だが、何も解決しない。
頭の上で丸くなって寝ているアキラを抱き寄せ、頬ずりをする。
アキラは目を覚ましたようだが、好きにさせてくれた。
なんで僕だけ長く生きられないのだろうか。
そうたさんももう少しゆっくり話してくれたらよかったのに。
アキラはいいな。のんきにうとうとしていてずるい。
ふつふつと怒りが湧いてくる。気づかぬうちに腕に力をいれすぎたようだ。
フニャー
アキラが鳴き声を上げて、もがき始めた。体をひねって大福の方を向き、そのおでこに肉球を押し付ける。なんとも優しい猫パンチだった。
ごめん、と言って、大福はアキラのお腹に頬ずりをした。
寿命の話をアキラにはまだできない。せめて、自分が落ち着くまでは黙っていよう。
そして、出来る限り人型でいるんだ。
大福は決心した。
数日大福が人型で生活していると、さすがにアキラも何か変だと思ったようだ。
編み物をするためだと説明していたが、ごまかせなくなってきた。
普段毎日のように出かけているアキラも家にいる時間を増やすようになってきた。
部屋が狭いせいか、今日は朝からずっと、アキラは猫の姿で家にいる。
昼過ぎになって、大福は散歩に出かけたくなった。
「ちょっと散歩してくるね」
そうアキラに伝えると、無言のまま、猫のまま、ついてこようとする。
無口なアキラのことだから、人の姿であったとしても、同じように何も言わなかっただろう。
心配をかけている自覚はあるので、一緒にいくことにした。
ぶらぶらと街中を歩いていると、雑貨屋さんの店長と会った。
「こんにちは。大福くんじゃないか」
「こんにちは」
「そちらの猫ちゃんは大福くんちの猫かい?」
「あ、はい、そうです」
大福がアキラのほうを見ると、いつもよりさらに機嫌が悪そうに見える。
ペットのように紹介されてふてくされているのだろう。
「作品に猫の毛がつかないように、気をつけてくれよ。今度の編みぐるみは猫にしてもらおうかな」
「はい、猫も作ったことあるので、大丈夫です」
短い会話を終えて、店長と別れてからも、アキラの機嫌は直らなかった。
家に帰っても不機嫌なオーラが伝わってくる。顔がこわい。
ちょうどいい機会かもしれないと思い、大福は勇気を出して声をかけた。
「アキラ、怒ってるの?ペットみたいに紹介してごめん」
アキラはさっきのことを思い出して、さらに腹を立てたらしい。
イカ耳になって、ふくらんだしっぽをぶんぶん振っている。
「僕もね、アキラのペットじゃ嫌だったんだ。だから仕事探したんだよ。対等でいたかったというか。アキラの相棒として認められたくってさ。だから働くの受け入れて欲しいな」
アキラのしっぽが細くなり、耳もぴんとたった。しっぽは動きを変えてぴくぴくと動きつづけている。怒りはおさまったが、検討中ということだろうか。
もう一押しだ、と思った大福は、アキラのあごの下に手を伸ばし優しくなでた。
ゴロゴロと気持ちのよさそうな音が聞こえてきた。