表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

酔っ払い大福


 大福は勢いよくドアを開けて、家に駆けこんだ。

 音がしないように、そっとドアを閉める余裕もなかった。

 住んでいるところは木造のオンボロアパートなので、うるさいぞ!と怒鳴り声が聞こえてきた。

 まだ日は沈んでいない。アキラもいなかった。

 そわそわと落ち着かない。

 ふかふかの自分の寝床に潜りたい気持ちもあったが、どうしても人型でいたかった。

 部屋の中をぐるぐると歩き回ったあと、ソファーに座り込んだ。

 ソファーにいつもおいてあるクッションを抱きしめると、アキラのにおいがした。

 ぎゅっと抱きしめて、顔をうずめ、思い切り吸い込む。

 目頭が熱くなり、強く目を閉じると、クッションが濡れてしまう。

 しばらくそうしていた。

 気が付くと、日が暮れている。

 大福はようやく落ち着いて、これからどうするか考え始めた。

 重い病気の余命宣告のように、いきなり死を突き付けられて取り乱してしまったが、時間はある。

 自分の歳がいくつなのか正確には分からないが、たぶん10代後半くらいだ。あと、10年以上ある。

 たくさんゴロゴロしてきた。普通のハムスター5匹分くらいはもう生きたと思う。

 仕事もやっと見つけた。そんなに落ち込むことはない。

 大福はそこでやっと今日もらってきたお金のことを思い出した。

 夜ご飯に好きなものでも食べようと思い、大福は買い物に出かけた。


「ただいま。うわ」

 アキラは家に入るなり、顔をしかめた。部屋の中はアルコールのにおいが充満していた。

「おかえり~」

 大福がお酒の入ったコップを掲げて迎え入れてくれる。

 大福は座卓の前に座り込み酒を飲んでいた。座卓の上にはまだ手を付けてない総菜が数種類。

 そして酒の瓶が3本も置いてある。1本はもう半分以上空いていた。

「今日、はじめて給料もらったんだ~。ご飯買ってきたの。アキラ食べよ~」

 大福はへらへらした顔でそう言った。ハムスターは可愛い見た目に反してアルコールに強い。

 その顔色に変化はなく、ほろ酔いで気分をよくしているようだった。

「じじいのとこ行ってきたのか?」

「うん」

 近所の酒屋さんは、猿の獣人が営んでおり、ひょんなことから二人は店主と知り合って、今までにも何度か家で酒盛りをしたことがあった。

 アキラは酒に酔った大福が好きだった。普段は動かさない表情筋をめいいっぱい活用するようになる。大福は笑い上戸だ。

 大福が仕事をするのは気持ちの良い事ではないが、こうして好きなものを買ってくるためなら、一緒に酒盛りをするためなら、少しはいいかもしれないと思えた。

「俺が帰ってくるのを待ってたのか、ほら、ご飯もたべろ」

 アキラは総菜の蓋を開けて、大福に箸を渡した。

「アキラ~、割って」

 大福はすぐにアキラへと箸を突き返した。甘えん坊の姿を見せるのもこんなときくらいだ。

 そのあとは、3本目に突入しようとした大福をアキラがとめ、お開きとなった。

 座卓の上を片付けていたアキラの腕を大福が掴む。

「猫になって」

 とろんとした瞳の上目づかいでおねだりをされて、アキラは思わず固まった。

 座卓の上を確認し、明日でいいかと言い訳をするようにつぶやく。

 アキラが猫になると、大福は両手で抱えて頬を摺り寄せた。

 そのまま、抱き上げてソファーに移動する。そして、アキラを抱きしめたまま気絶するように眠りについたのだった。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ