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余命


「よかったーー」

 青年は再び前に倒れ込んで、両手で頭をわしゃわしゃとかき回した。

 耳がひっこむと、起き上がり、大福に向き直った。

「いや、本当に助けてくれたのが君でよかったよ。俺もジャンガリアンなんだ。もう年だからさ。体力はないし、気が抜けるとすぐ耳とか出てくるし。耳もしっぽも小さいのが不幸中の幸いかな」

 相手が獣人だとわかって気を許したのか、青年はいきなり饒舌に話し始めた。

「そんな、まだお若いじゃないですか」

 大福は相手を励まそうと、声をかけた。

 しかし、それを聞いた青年は、ぴたりと動きをとめてしまった。

 何かまずいことを言ってしまったのだろうか。大福も固まった。

「もしかして、ハムスターの獣人に会うの、はじめて?」

 おずおずと青年が質問した。

 大福はぎこちなくうなずく。

「うわあ」

 青年が頭を抱えてのけぞった。大福は固まったまま動けない。

 青年が上体を戻し、頭をがしがしとかいた。ハムスターの毛づくろいに見えなくもない。

 ストレスを感じていらっしゃるのだろうか。

「なんでなんだ。どうかしてるぜ、この野郎」

 青年がぶつぶつと悪態をつく。

 青年がちらりと大福を見た。返事を待たせていることに気づいたらしい。

 髪の毛を整え、姿勢を正して、咳払いした。そして少し背中を丸めて話し始めた。

「ああ、ごめん。さっきのは、君に対して言ったわけじゃなくて。獣人がもっと生きやすい世の中になればいいのにってことで。まあいいや。あのね、……人間、子供が大きくなって、大人になって、おじいさんになって死んでいくでしょう。だいたい80歳くらいかな」

 ああ、彼はすごく大事な話をしようとしてくれている。

「で、動物にもそれぞれ寿命があるでしょう。じゃあ獣人は?っていう話なんだけど」

 青年がため息をついた。大福は逃げ出したくなっていた。

「動物よりはずっと長い。仕組みはよく分からない。心臓はみんな同じだけ動くとかいうから、人型になる分、寿命が伸びるのかもしれない。犬猫の獣人はだいたい人間と同じくらい生きる。……俺は、今、29歳だ。ハムスター獣人の寿命は、だいたい30歳くらいなんだ」

 ふっ。大福は思わず笑ってしまった。

 青年の眉毛はさっきからずっとハの字だ。

「不思議なことに人型になると、こんなに若いんだよね。みんなやつれるんだけど。いきなりこんな話をしてもびっくりするよね。これ、俺の名刺、話したくなったら、連絡して」

 大福は青年から名刺を受け取った。彼はそうたさんというらしい。

「僕は、大福です」

 すっかり遅くなった自己紹介をしながら、固まっていた大福の頭が動き出した。

 聞いてしまった。こんな大事な話をこんないきなり聞かなきゃいけないのだろうか。

 30歳って。僕は今、何歳なんだろうか。なんでこんなに自分のことを知らないんだろう。

 アキラは。アキラは猫だ。

 どうしよう。

 大福は居ても経っていもいられずに、そうたさんにきちんと挨拶もできず、軽くお辞儀だけして、家の方に駆けだした。

 










 

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