出会い
大福は編みぐるみを納品した帰り道、はじめて自分で稼いだお金を持って、町をぶらぶら歩いていた。
何かおいしいものでも買って帰ろうか。
アキラに何か贈るのもいい。
今まで必要なものはアキラが買ってきてくれたし、おつかいを頼まれて大福が出かけても、買うのは食料くらいだった。
生活に必要ではない、ただただ欲しいものを買おうと思ったのははじめてだ。
欲しい、買おう、という気持ちがあってはじめて、街中のいろんな店が目に入ってくる。
一歩、また一歩と、進むごとに発見があった。
花屋さん、洋菓子屋さん、洋服屋さん、本屋さん……。
まるではじめて訪れた町のように、新鮮な感覚に気持ちがはずむ。
右、左、と首を動かし、店の看板を見上げて歩いていた大福は、何かにつまずいた。
「うわっ……」
つんのめって慌てて地面に両手をついた。両手と両ひざに痛みが走った。
土をはらって、傷を確認していると、後ろから声がかかった。
「ごめん、大丈夫?」
振り返ると、足を伸ばして道端に座り込んでいる人がいた。黒髪の青年で、痩せていて何だか具合が悪そうだ。大福は、自分の足が相手の足にかかっていることに気づいた。
「ごめんなさい。ちゃんと前を見てなくて」
急いで青年の上からどいた。
「大丈夫ですか?どこか、痛いんですか?」
「ああ、大丈夫。ちょっと疲れちゃってね。悪いんだけど、肩をかしてくれるかな。すぐそこの公園で休みたいんだけど」
青年があんまり辛そうだったので、大福は肩をかしてあげることにした。
大福は青年をベンチに座らせて、水道で手を洗った。そして近くの売店で水と絆創膏を買った。
はじめての給料を見ず知らずの人のために使うことになるなんて。
なんだかちょっぴりもったいないような、誇らしいようなそんな気分だった。
青年は大福に水を渡されると、とても驚いて、それから困った顔になって感謝した。
大福は、ゆっくり水を飲む青年をじっと観察する。
具合が悪いのも、驚いたのも、感謝の言葉も嘘のようには見えなかった。
青年はペットボトルの蓋を閉めると、脇に置き、上半身を前に倒して、ひざにひじをついた。
ふうーー
大きなため息が聞こえた。少し落ち着いたのだろうか。
背中がゆっくり上下に動いて、深い呼吸を続けていることがわかった。
そのとき、青年の頭にぴょこっと白いものが生えた、ように見えた。左右に二つ。
大福はびっくりして口を半開きにしたまま凝視する。
髪の毛に見え隠れして、よく分からないが、あれは、耳だ。
「……みみ」
大福が思わず漏らした言葉を聞いて、青年ががばっと起き上がり大福を見た。
両手で頭を押さえている。顔にはしまったと書かれていた。
「いや、あの、これは……」
青年がずるずると後ろに下がっていくのを見て、大福はあわてて声をかけた。
「待ってください。僕も獣人です。ハムスターです」
「えっ……そうなの?」
青年の動きがとまり、大福はほっと息をついた。