一緒に寝よう
お店で店主と話した後、毛糸をもらった大福はほくほくした顔で帰宅した。
材料をもらえるなんて思っていなかったので、いい職場が見つかってよかったと改めて思ったのだ。
アキラは今日も出かけている。
なぜあれほど自分が働くのを嫌がるのか、大福にはよく分からなかったが、お互い気持ちよく過ごすためには、アキラが不在のうちに作業するのがいいだろう。
まずはじめに納品を頼まれたのは、ハムスターの編みぐるみだった。
面接のときに持って行ったものだ。最近お店で、ハムスターの商品が売れ筋のようだ。
ぬいぐるみや小物などは、もうすでにお店に並んでいて、そこに編みぐるみを追加したいそうだ。
大福は一度、ハムスターになると、鏡を見ながら大きさや柄を確認した。
そして、実寸大のジャンガリアンハムスターの編みぐるみを作り始めた。
日が暮れてくるころには、ジャンガリアン、ゴールデン、キンクマの三つが出来がった。
大福は伸びをして、毛糸や作品を片付けると、ハムスターになった。
耳の後ろから腕を回して、ゴシゴシと毛づくろいをする。
それから、アキラが帰ってくるまでひと眠りしようと、綿でできたふかふかの寝床に横になった。
大福は夢を見ていた。
児童養護施設でアキラに出会ったころのことだ。
アキラは大福を決して離そうとはしなかった。
大福も新しい寝床が気持ち良くて、アキラのふところで大人しくしていた。
職員もついに諦め、他の猫との間に仕切りを作ったり、アキラのそばにハムスターのえさを置くようになった。毎日様子をうかがいに来るのを見ると、どうしようか職員同士で相談しているようだった。
数日一緒にいるうちに、大福はアキラが外ばかり見ていることに気が付いた。
アキラが大福を見て、窓の外を見て、また大福を見た。
言葉は通じずとも、脱走に誘われていると気づいた大福は、こくりとうなずいてみせた。
次の日の早朝、うとうとしていた大福は、アキラに首の後ろをくわえられた。
アキラが歩き出したことにびっくりして覚醒する。
体がプラプラして落ち着かないうえに、飛び上がるというはじめての動きが加わって、大福は固まっているしかなかった。
大福が動揺しているうちに、アキラは、仕切りを飛び越え、窓を開けてあっさりと脱走してしまったのだった。
児童養護施設から出て行こうとするものは、今までいなかったので、決心さえあればそんなに難しいことではなかったようだった。
大福はあのときと同じ浮遊感を感じて、ぶるぶるっと体を震わした。
半分目を開けると、実際に宙に浮いているようだった。首や頭に温かい息がかかっている。
アキラが自分の寝床であるソファーに大福を運んでいるところだった。
今ではすっかり慣れたお馴染みの光景だ。大福は体の力を抜く。
アキラは、大福をやさしくソファーに下すと、自分の両前足で抱え込み、ペロペロと毛づくろいを始めた。猫の舌は、毛づくろいに最適だなと大福は思う。
そのまま、二匹は一緒に眠りについた。