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喧嘩の原因


 大福は目を覚ました。

 部屋が広い。物も大きい。遠くがよく見えない。

 ああ、ハムスターになってしまった。自分の体力のなさが腹立たしかった。

 朝ご飯を食べて、アキラを話をしたのは覚えている。それから自分はどうしたんだっけ。

 体を起こして辺りを見渡すと、そこがソファーに横向きで寝そべった猫の腹の上だと分かった。

 体が少しだるい。気持ちも重い。何もしたくなくて、再び灰色の毛皮のベッドに寝転がる。

 どこまでも続くモフモフベッドは、この姿の特権だった。

 モフモフにぎゅうぎゅうに囲まれたくて、猫の脇に向かって移動する。

 両腕の間に入り込もうとモフモフを掘り進め、半ば無理やり顔を押し込む。頭頂部から圧がかかり、両目が飛び出るのを感じたが、このくらいなら大丈夫だ。

 やっとのことで両手で猫の腕をまたぎ、落ち着ける恰好を探してモゾモゾと体をひねった。

 すると体の上にのっていた重みが消え、モフモフが動き出し、猫舌で思い切り舐められた。

 顔を上げると、猫は目を閉じていた。ベッドは大福を取り囲むように動く。

 ちょうどいい力加減で四方をモフモフに囲まれ、大福は意識を手放した。


 大福が再び目を覚ました時、猫は自分の毛づくろいをしていた。

 よく見ると、腕に傷のようなものが見える。昨日までそんな傷はなかったはずだ。

 大福はあわてて飛び起きて、人型になった。

「アキラ!怪我してるの?」

 傷を見せまいと逃げ出そうとした猫を、後ろから捕まえる。

 あぐらをかいて座ったところに、猫も座らせ、あちこち点検すると新しい傷がいくつか見つかった。

 大福がうろたえて手の力を緩めたすきに、アキラは逃げ出し、人型になった。

「お前、もう人の姿になって大丈夫なのか?」

 大福はうなずく。人型になったことで、アキラの傷がよく見える。猫の姿でも見えていた腕の傷のように大きめのものだけでなく、体のあちこちにひっかき傷があった。

「それどうしたの?喧嘩したの?」

 大福が聞いてみるが、アキラは答えようとしなかった。

「大福、お前の方こそ、俺に話すことがあるんじゃねえのか」

 逆につっこまれて、大福は固まってしまう。

 アキラは服のポケットから何かを取り出して、大福の横にあった座卓の上に置いた。

 それはそうたさんの名刺だった。

「なんで、これ、アキラが持って……」

「お前が倒れたとき、服を片していたら見つけた」

 それでも大福は話せなかった。アキラは眠そうな目をしていて初対面の人だったら、怒っていると思われてもしかたない人相だが、大福にはわかる。今、アキラは怒っていない。

 そうたさんのことは適当に道端で出会って、名刺を渡されたと言えばやり過ごせるだろうか。

 そんなことをぐるぐる考えていると、アキラのため息が聞こえた。

 大福の正面に座り込み、額に手を当て、うつ向いたまま話はじめる。

「昨日、そいつに会ってきた」

「え?」

「お前、倒れるし。何も話そうとしねえしよ。隠すならもっと上手く隠せよ。体調管理くらいしろ」

「ごめん」

「そのうち話してくれるつもりだったんだよな?」

 アキラが視線だけ上げた。大福と目が合う。

 大福は思わず目をそらしてしまった。正直に言うと、こんなに寿命が短いのなら、いっそのこともっと早くアキラから離れたほうが、アキラのためになるのではないかとちらっと考えた。

「おい。なぜ目をそらす?まさか何も言わずに消えるつもりだったなんて言うつもりじゃねえだろうな」

「そんなことは……」

 大福の声はとても小さかった。

 アキラがまた大きなため息をついた。

「あーあ、もう一生ハムスターのままケージに閉じ込めてやろうか」

 何かぶっそうなことをぶつぶつつぶやいたあと、アキラは体を起こして話を続けた。

「そうたさんとやらに会って、ここんとこお前の様子がおかしかった原因が分かって。俺もどうしていいか分からなかった。猫になってぶらぶら歩いてたら、いつもの奴らに絡まれた。ちょうど喧嘩したい気分だったからな。ぼこぼこにしてやったぜ」

 大福がアキラの顔を見ると、泣きそうな優しい顔をしていた。

 アキラは大福に無理やり問いただすようなことはしなかった。

 どうしていいのか分からないのは、自分だけではなかった。

 アキラがだんだんぼやけてキラキラしてくる。

「今なら猫の姿で、ハムスターのお前を背中に乗せて街を歩いても、文句は言われないぜ。一回やってみるか、猫の王様ごっこ」

 大福は想像した。そして吹きだした。うつむいて笑っていると、アキラの笑い声も聞こえた。

 顔を上げると、アキラが両手を広げていた。迷わず飛びつく。

 アキラは大福の胸に顔をうずめた。痛いくらい抱きしめられる。

 アキラが顔を横に向けて、大福の胸に耳を押し当てた。そして、かすれた声で言った。

「お前、心臓、もっとゆっくり動かせよ」

 体温がカッと上がり、抱きしめていたアキラの頭が濡れていく。

「無茶言わないでよ」

 大福はそう答えるので精いっぱいだった。




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