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18.お嬢様は暴走してる



「おはよう!れお!」

「おはよう、濡れてるじゃねえか」


 玄関のチャイムが鳴って出てみれば、雨に濡れた笑顔の美雨が1人で立っていた。あれ?またサラいないのか?今日は朝から土砂降りだから、自分で車を降りてきて濡れたのか。


「サラはどうした?」

「置いてきたわ!」


 いや、どっちかっていうと置いていかれた側じゃね?あっちは車だし。

 とりあえず玄関に常備してあるタオルを渡す。


「ほら、濡れてると風邪引くからさっさと拭けよ」

「んぅ?」


 美雨はタオルを受け取ったものの、顔だけ軽く拭いてタオルを返そうとしてくる。いやいや、めちゃくちゃ濡れてるじゃねえか。

 仕方なく突っ立っている美雨の髪をタオルでそっと拭う。しかしすごい雨だな。家の中まで音が轟いているし。だから今日は家でおとなしくしていれば良かったのに。美雨はされるがままでボーっとしている。そんなに見つめないでもらっていいかな。ものすごくやりづらい。

 髪は水滴がしたたり落ちないくらいにはなったが、問題は服だ。びっちょりと濡れて肌に張り付いているのがひと目で分かる。目にも毒だが、このままではマジで風邪を引きかねない。


「玲央~、だいじょ——うわ、びしょ濡れだな。とりあえずシャワー浴びてもらった方がいいんじゃないか?服は乾くまで玲央の貸してやれよ」


 なかなか来ないことを心配したのか兄貴が顔を出したが、それだけ言ってまたリビングに引っ込んでしまった。まぁそれしかないか......。

 

「——っくち!」


 ん?何今のかわいらしい音?発生源を見れば、美雨が鼻をすすっている。うん、これはまずいな。靴を脱いだ美雨の手を引いて脱衣所に押し込む。


「とりあえずシャワー浴びとけ。服は今持って来るから、俺ので我慢してくれ。で今着てるのは乾かすから洗濯機に突っ込んでおけよ」

「わかったわ!」


 元気な返事を聞いて、俺は濡れた廊下を拭いてから自室へ着替えを取りに行く。とりあえずスウェットでいいかな。女子に着せる服なんて持っているわけがないし、体を冷やさないことが先決だ。そーっと脱衣所に服を置いてからリビングへ向かう。クラスメイトの女子が我が家でシャワーを浴びてるという状況に鼓動がうるさくなる。ええい、収まれ俺の心臓......!


「大丈夫そうか?」

「ああ。ったく、無理にでも拒否っとけば良かった......」

「玲央には無理だろ。ま、いいじゃないの。こんな経験めったにないぞ」


 兄貴と雑談しながらサラにメッセージを送る。

 ......どうやら美雨がサラは来なくていいと言ったらしいが、護衛としてはそれでいいのか?いや、玲央殿なら安心して任せられるじゃねえよ。職務放棄じゃねえか。

 

 しばらくすると美雨がおずおずとリビングに入ってきた。......髪を濡らしたまま。ああ、頭が痛い。

 美雨を座らせて脱衣所に行き、洗濯機を乾燥モードで起動してからドライヤーと櫛を持って戻る。

 女性の髪を触った経験など無いしやり方は分からないけど、とりあえずゆっくり丁寧に梳かしながら乾かしていく。なんで俺と同じシャンプーを使ったはずなのにこんないい匂いすんの?これが女子力ってやつですか?ダメだ、考えるな。無心になるんだ。

 あ、こら。足をばたつかせるんじゃない。お行儀が悪いぞ。なんか、やっぱりいつにも増して子供っぽいよなぁ。


 「痒いところはございませんか?」

 「だいじょうぶよ!」


 言ってから気付いた。これ、髪洗う時に言うやつだ。


 「あらためて、怜央の兄の佐藤秀雄です。いつも怜央がお世話になってます」

 「くすのきみうです!」


 髪を乾かし終わったのを見て、社会人ぽい挨拶をする兄貴に対してニコニコ笑顔で返す美雨。


 「とりあえず俺たち上にいるから。なんかあったら呼んでくれ。ほら美雨行くぞ」

 「はいよ。ごゆっくり」


 飲み物を持って兄貴に背を向けると、美雨が俺の左腕を掴んでくる。あの、せめて兄貴の前ではやめてくれませんかね?飲み物こぼれそうだし、背中にすごく視線を感じるんですが。

 部屋に入ると相変わらずベッドの上(定位置)に陣取る美雨。俺のスウェットでベッドは男子高校生にとって非常によろしくない状況だ。しかも2人きり。


 「れお!はやくはやく!」


 だけど美雨は何が楽しいのかすでにはしゃいでいる。涼たちは学校での様子を気にしていたけど、俺はむしろこの子供っぽい美雨の様子が気になってしまう。

 とりあえずいつもよりスペースを開けて俺もベッドに腰掛ける。これ以上近づくのは危険だ。


 「美雨、昨日から様子変だけど何かあったか?」

 「なにもないわ!れおにあいたかっただけよ!」


 なんだか答えになってないんだが……。よくもそう恥ずかしいことを言えるもんだ。


 「んふふ!れおのふく!れおのにおい!」


 やめろォ!それは俺の心に突き刺さる(ダイレクトアタックだ)!俺の服だけど俺のにおいじゃない!洗濯してあるから!洗剤のにおいだから!!

 なんでこうも俺の急所を抉る発言ばっかなの?子供っぽいというか、幼児退行してる?だから思ったことそのまま口に出ちゃうのか?

 とは言ってもその原因が分からないんだが......。


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