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17.お嬢様の様子がおかしい



「なぁ、玲央。楠となんかあったか?」

「あん?別になんもないぞ?」


 涼につられて教室の中心を見ると、今日も人に囲まれている美雨がいる。


「私も気になりま~す!なんか、ここ最近の美雨って以前にもまして表情が硬いのよね~」

 

 麗香も涼に同意しているが、心当たりがない。先週の水曜日の放課後、ウチでゲームしたくらいだしなぁ。週末は珍しく用事があったらしくて会わなかったが、それでも毎晩通話しながらゲームはしているのだ。

 たしかに今の美雨は楠の仮面を被っていて笑顔というには硬い表情だ。だが、そもそも最近はプライベートでの美雨の印象が強すぎて、関わる前の美雨がどんな感じだったのか正直曖昧だ。


「ホントに何もねえんだよなぁ。つか麗香こそあいつとやりとりしてんだろ?」

「うーん。私のほうも特にこれといって......あ、もしかして逆かも」

「逆?」

「むしろ順調だから退屈に感じちゃうのかもね~」

「......涼、通訳頼む」

「ん-、まぁ本当の楠は玲央が知ってるしいいんじゃないかな」

「余計に意味が分からないんだが......」


 本当の美雨といっても、まだまだ知らないことの方が多いしな。

 しかし昨夜も通話しながら一緒に『おいたね』をやったが、特に変わった様子はなかった。美雨の機嫌が落ち込むような出来事はないはずだが......。

 その後も横目に美雨の様子を観察していたが、分かることは何もなかった。



 

「れお!明日はげーむせんたーに行ってみたいわ!」

「ゲーセン?明日は雨だぞ?」

 

 涼たちは心配していたが、美雨は普通に元気だった。心なしか、喋り方がいつもより子供っぽい気がしないでもない。

 

「むぅ。雨でもいいじゃない......」

「濡れると風邪引くぞ。ゲーセンはまた今度で明日は家でゲームでもいいんじゃねえか?」

「しかたないわね!じゃあ明日9時に行くからよろしくね!」

「おう。......ん?行くってどこに?」

「どこって、れおの家に決まってるじゃない!」


 あれ?俺は外に出ると濡れるから家にいろって意味で言ったんだけど。なんでウチに来るのが当たり前みたいになってんの?

 しかし明日はなぁ......。あまり都合が良いとは言えないが、今更やっぱりゲーセンに行こうとは言いづらい。濡れるの嫌だし。

 まぁいい機会だし、と美雨の来訪を了承した。......できればもう少し遅い時間にしてほしかったが。

 

 早めに通話を終了させた俺は、部屋を出てリビングへと向かった。そこにはまだ起きていた兄貴がテレビを見ていた。


「兄貴、ちょっといいかな」

「んお......あらたまってどうした?」

「あー、明日さ......友達、が来るんだけど......」

「おー、いいじゃないの。なんだ、彼女か?」


 友達と言う時に一瞬言い淀んだのがいけなかったのか、余計な詮索をしてくる。ったく、どいつもこいつも恋愛にこじつけたがる......。


「そうじゃなくて。そいつの名前......美雨っていうんだ」


 その名前を口にすると、兄貴はフリーズしてしまった。そりゃそうだ。俺たちにとって楠というのは、特別な意味を持っているからな。

 だけどいつまでも隠しておくわけにもいかないし、どのみち明日になれば分かってしまうことだ。


「お前......」

「あいつもさ、楠の名前に苦しんでいるんだ。努力することが当たり前で、学校でもお嬢様を演じなくちゃならなくて、笑うことすら出来ない......。だから——」

「玲央、お前が決めたことなら俺に遠慮なんてするなよ。誰の子だって関係ないだろ?ちゃんとその子のこと、見てやれよ」

「......ああ、分かってる。ありがとう」


 兄貴からしたら裏切りとも取れるかもしれないと思ったが、あっさりと受け入れてくれた。やっぱり兄貴には敵わないな。


「でもそっかー。最近玲央が楽しそうなのはその子のおかげなんだなぁ。あ、でもちゃんと高校生らしい付き合いにしておけよ?さすがに高校生のうちは責任の取りようが無」

「だーかーら、そういうんじゃねえっての。あいつは友達だから。くれぐれも余計なことは言わないでくれよ。プライベートの美雨はポンコツだからなんでも真に受けるぞ」

「へー、それは会うのが楽しみだなぁ」


 なんだかすでに嫌な予感がするんだが......。兄貴に話したのは失敗だったかもしれない。

 

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