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13.お嬢様はお話がしたい


 遊園地から4日経った水曜日の昼休み。

 今日は涼と麗華と3人で昼飯を食べていたのだが、俺はある問題に頭を抱えていた。

 

「なぁ怜央。本当にいいのか?」

「......いいんだよ。ほっとけ」

 

 涼がある方向をチラッと見るが俺は無視する。

 今週に入ってからやたらチラチラと視線を感じるのだ。その主は分かりきっているのだが。

 月曜の夜に、『何か用だったのか?』とメッセージで聞いてみるも『なんでもないわ』と返ってきた。しかし翌日になればまた視線を感じる。パッと顔を上げて見ると慌てて顔を逸らす。あれでバレてないとでも思っているのだろうか。

 思い出すのは観覧車でのあの表情。儚げで、どこか寂しそうにも見えるあの表情が。


 人間というのは欲深い生き物だ。それは楠の令嬢とて同じだろう。

 俺だけでなく涼や麗香とも一緒に遊んで楽しむことを知ってしまった。それはたしかに息抜きにもなるが、逆に言えば学校にいる時間が余計にストレスになるということだ。

 だから学校でも関わりを持ちたいと、そういうことなのだろう。 しかし、だからはいそうですかと相手をするわけにもいかない。休日など学校外ならまだいいのだ。それなら気分転換くらいは付き合うさ。

 だけど学校で関わるとなると話が変わってくる。楠のお嬢様が一般庶民の俺と関わろうものならすぐさま学校中の噂になってしまうだろう。

 用があるなら夜にでもメッセージで相手してやるから勘弁してくれ。





 そして夜になり、そろそろ美雨からメッセージが来る時間かと待ち構えていると、通知音が耳に入ってきた。しかしいつもと違ったのはその音が長かったことだ。

 つまりそれはメッセージではなく——


「もしもし」

「あ、玲央。ごめんなさい、いきなり」

「別にいいけどどうした?電話なんて初めてだろ」

「......ええ。その、特に用事があるというわけではないのだけれど、お話がしたいなって思って......」


 唐突なのはいつものことだが、なんでこう予想を超えてくるのか。まぁメッセージよりは都合がいいかもしれない。

 俺はイヤホンを装着してゲームを起動する。メッセージだと手が塞がるが、電話ならゲームしながらでも可能だ。ゲームの音が聞こえないのが難点ではあるが。


「つーかお前さぁ、学校でこっち見すぎじゃね?」

「えっ、そ、そうかしら?別にいつも通りだと思うのだけれど」


 誤魔化してる......というより自分でも気づいてない可能性もある。


「あのなぁ。俺たちだけじゃなくてお前の周りにいる奴らのなかにも気づき始めてるのがいるぞ?」

「そんなに見ているつもりはないのだけど......善処するわ」


 基本的には美雨の周りの連中は売り込むために自分のことを語るので忙しい。が、美雨の機嫌を損ねないようにか反応を見ている者もいる。そういう奴はさすがに気づいているはずだ。

 何も知らない奴からすれば、涼に気があるか俺が何かしたと考えるのが妥当なところだろう。実際振り回されているのはこちらなのだが。

 ともあれそういった噂が広まるのはよろしくない。しかしこいつの『善処する』っていまいち信用出来ないんだよなぁ。


「ぜひそうしてくれ」

「そ、その代わり!こうして電話してもいいかしら......?」

「そのくらい好きにしろよ。電話ならゲームしながら出来るし付き合ってやるよ」

「ゲーム?なんのゲームしているの?」


 ん?ゲームに興味持つなんて意外だな。文句でも言われるかと思ったんだが。


「モンスタープレデターってやつだけど......まぁ知らんよな。キャラクターとか操作してモンスター倒すゲームだよ」

「私、ゲームってやったことないから今度やってみたいわ!」

「......さすがに初心者がやるには難しいからやるなら他のにしたほうがいいんじゃないか?」

「他って何があるのかしら!?」

「今どきなんでもあるんじゃないか?アクションにRPG、パズル系にシミュレーション。パソコンやスマホでも色々あるしな」

「ちょっと何言ってるのか分からないわ」

「別にそこまで専門用語使ってるわけじゃないんだが......」

「まぁいいわ!じゃあ今週末はゲームね!」


 ん?なんて?さっき、今度やってみたいって言ってなかった?どこかに連れ出されるよりはマシだけど......。


「それはいいけど、どこでやるんだ?」

「それはもちろん——玲央の家よ!」


 やっぱそうなるよなぁ。今週末......たしか兄貴は金曜から出張って言ってたな、なんというタイミングなんだ。というかその前にまずゲーム機自体を買わないといけないんだが。

 それからも、ゲームをしつつ楽しそうな美雨の声に耳を傾ける。かけてきた時の遠慮がちな雰囲気など微塵も残っていない。楽しいならいいけどさ。

 しかし、気が付いた時にはその声がだんだんと小さくなってやがて途切れた。


「......美雨?」

「............」


 返事はなく、聞こえてくるのは微かな息遣いのみ。こいつ......寝落ちしやがった。

 時計を確認してみると23時を過ぎたところ。思ったより経っていたようだ。

 はしゃいで疲れて寝落ちなんて子供っぽくて苦笑してしまう。


 俺は、すでに夢の中にいるであろう美雨に「おやすみ」と呟いて電話を切った。





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