宴席からの旅立ち
惑星温泉は、まさにこの世の天国だ。
エステボーヨシユキの営むこの宿は、料理も旨かった。
山海の珍味に舌鼓を打ち、何故だか「越後の美酒」を堪能する、連盟軍情報部の遠藤為五郎大佐と、連盟軍245ヶ星系軍パイロットのaタイプ中尉、そして特異点江守友和なのだ。
エステボーヨシユキを呼び出して宴席は更に盛り上がった。
ほろ酔いの浴衣姿もなまめかしいaタイプが言った。
「あの時あなたに上空から奇襲攻撃された時は、もう駄目かと思ったわ。あんな無茶苦茶なハイパードライブやってて怖くないの?」
こちらもほろ酔いのあるじ、エステボーヨシユキ。
「あははは宙賊エステボーヨシユキならではだろ? ちょっとだけ種明かしするけど、ドライブコースのデータは、ほとんどエンタメの親父さんから貰った物なんだ。大泥棒だったからねえ。逃げ足も早かった。逃走データがまた凄い。捻り込みに、逆落とし、これは昔の地球の日本軍のゼロ戦の技なんだ。それからブラックホール隠れに銀河のふち回りとワープコースも盛り沢山だ。俺の憧れだったんだ、天駆ける神出鬼没のエンタメ号」
遠藤為五郎ことエンタメも酔っ払っている。
「俺は嫌だったよ。オンボロ時空艇のエンタメ号。親父は愛着があったんだな、きっと。あんなポンコツ艇でよく稼業が続けられたと思うよ。俺たちゃ泥棒よりもポンコツ艇でのワープの方が、よっぽど怖かったよ」
今夜のエステボーヨシユキは、ロボ・ミナコにすっかり毒気を抜かれたせいなのか、どこから見ても宙賊稼業にはほど遠い温和な顔をしている。
「そうさなあ、この銀河の中で、あの頃のエンタメ号よりも神出鬼没な奴って言ったら、悔しいけどステッペンウルフ(エステボーヨシユキの時空船)も敵わない。何しろ地上スレスレまでワープして、何処でも行っちまうんだから気違い沙汰だ。あんな芸当が出来るのは、もはや江守のダンナのようにテレポテーションのできる、特異点だけだろうな」
aタイプも酔っ払ってきたようだ。
「友和さんは凄いのよ~。テレキネシスも使えるのよ~。オカマバーで宇宙蛭をやっつけた時こうやって~」
太極拳のポーズを決めるaタイプだ。
浴衣の裾がめくれあがって、抜群の脚と太ももが丸出しになった。
あまりの色気に目のやり場に困る男共であった。
「違いない。こう見えてもこのダンナは戦略的センスも抜群なんだ。落とし穴で蛭の大群に埋まった時、ダンナの塩がなかったら間違いなく、俺たちゃここから、こう取り付かれて、今頃は蛭御殿のあるじだよ」
と、恐る恐る首筋を撫でながら、エンタメが言った。
「あんまり褒めるなよ。照れるじゃないか。だいたい特異点だエスパーだって言ったって、コントロール不能なんだ。お世辞にゃ慣れてないから照れ臭くって、どっか遠くへ行っちまいたくなっちまう」
こう言って友和は、特選吟醸の「登美屋」をぐいっと一口飲んだ。
と同時に、忽然と消え失せてしまった。
唖然としているaタイプと、エンタメとエステボーヨシユキ、それから酌をしていたコンパニオンの二体のアンドロイド女も、あんぐりと大口をあけている。
盛りだくさんの料理を乗せた、大きな秋田杉の座卓の上には、たった今、友和が使っていた、ぐい呑みが、コロコロと転がっているばかり。