親友
狂気に侵されたかのような最悪の話だった。
何故狂ったのか、それはわからない。自分が目についた人を殺し続けるのを眺めることしか出来なかった。
この体が新たな獲物を見つけたらしい。
ちぐはぐな外見をした少女のような男?
体つきはガタイがよくて白人のように白く、それなのに顔は日本人顔の男のよう。しかしどこか秋が似合う女性のような瀟洒さを感じる。
僕の体はその男に詰めて、スキルによって出現した太刀をつかって切り付ける。
男はどこからともなく出現した槍でガードする。
僕は危険と判断したのか一度下がる。
驚きなのは男の行動だった。
なんとノーモーションで僕の横腹を切る風が吹いた。
僕はそんなことはお構いなしにまた距離を詰める。
今回も防がれる。
今回はお試しとばかりに横薙ぎの攻撃を放つ。
僕は一撃で止められないとわかり数で力の総量を合わせる。
止められたことに驚いているらしい。
それに対応してか、なんらかのスキルを使う。
その瞬間ほど僕は人に感謝する事は無いだろう。
狂気が収まっていた。
「ありがとう、正気に戻れた。」
「それならよかった。もうやめようか。」
「いや続けよう。吹っ切れたいんだ。」
少しだけ親を殺した罪悪感を晴らしたい。
「なにがあったんだ?」
踏み込んだ質問、答えなくても許される答え。
それに僕はこう返す。
「……親を殺した。」
「……聞かないよ。」
ありがたかった。僕はその言葉を聞いた時どんな顔をしていたのだろうか。
僕のスキルと、師匠の名に恥じない戦いを誓う。
「叢雲流、として勝負を挑む。」
男は、ワクワクしたように笑って、
「受けて立つ。」
太刀での初撃は、他の武器の初撃より重要度が高い。
だが、少し驚きながらも、対応して見せた。
見えない太刀を防ぐとは、流石としか言いようが無い。
今度は男が攻撃を仕掛ける。
槍を横薙ぎにするだけのシンプルだがスキルにやる強化が乗っているであろう攻撃。
それを太刀で何十何百と受け止める。
動きが止まった事に対して驚き、ワクワクしているようだった。
この男を強敵と認識し、技を出す。
「叢雲流、凪」
相手は目一杯距離を取ったようだ。
叢雲流とは天邪鬼な流派だ。
こんな暴力的な攻撃を凪と称することは無いだろう。
しかし相手は突っ込んでくる。
「ハハッ」
少しワクワクしてくる。
凪の範囲を縦横無尽に飛び回っていた斬撃が、奴に一旦に注がれる。
しかしそれを合わせて跳ね返し続ける。
「はははははははははは」
すごい。
全ての斬撃をパリィして俺に肉薄してくる。
そして相手に初めて攻撃をくらう。
凪を解いて、二人して大爆笑する。
「次を耐え切ったら終わりにしよう。」
こんな奴を殺してはこちらがつまらない。
相手はこう返す。
「良いな、やってやる」
ならばと、裏の中で一番一撃の威力が高い攻撃を放つ。
「叢雲流、悪鬼羅刹」
悪鬼羅刹とは様々な恐ろしいものという意味だ。
それの反対は、たったひとつの、静かなものと解釈した。
だからこそ相手はまた面白いように笑い、スキルを使ったのか膂力が飛躍的に上がっていた。
静かに抜かれた太刀と、暴力的に振り抜かれた槍。
空を切る攻撃が太刀に襲いかかる。
拮抗は続く。
しかし一瞬で終わる。
……
「「ははっ」」
「「ははははははははははははははははは」」
笑いが止まらない。こんなに戦闘を楽しいと思ったことはない。
そんなことを考えながら、そいつは僕に言う。
「おいおい、悪鬼羅刹がたった一体なんてふざけてるのかよ」
それは僕も、最初から思っていた。だが、この叢雲流とはそういうものであり、いま思うことを素直に言ってやる。
「バカが、それがイカしてんだろうが。そんなことよりあの魔法どういう理屈だ?詠唱しないなんて」
「ライバルといって差し支えないやつに教えるわけないだろ。」
「それもそうだ。」
最高に楽しい戦闘だった。
そいつは僕もやろうとしていたことを告げる。
「名前は?」
母の姓は捨てる。どんな理由かあろうと、もう僕が使って良い姓ではない。
「叢雲 達人」
この世界において存在しない姓を名乗る。
「そうか、覚えいてやる、またやろうじゃ無いか」
そんなことを言うそいつに、僕は足りないことを指摘する。
「おい、名乗らせたんだ分かるよな?」
「―― ―」
聞こえた答えはノイズだった。
「酊酩 応憧」
ああ、これは本名では無いのか。だが、ノイズといい事情があるのだろう。
考えついた答えは少しタイムラグがあったが、普通の答えだろう。
「覚えておこう。」
かれは良いやつだきっとあんな良いやつと会うことは珍しいだろう。
応憧、また会おう。