一章7話 記念すべき日
それから半月ほどヴェアとの戦闘をひたすら繰り返したことにより、魔力の扱いにだいぶ慣れてきた。まだ一度もヴェアに、一撃喰らわせることはできていないが、それでもある程度戦えるレベルにはなったと言えるだろう。
「よし、じゃあそろそろ魔力を使った戦闘にも慣れてきただろうし、次のステップに進むか」
「まだ次があるんですか」
「基本のステップは次で最後だよ。次はスキルについてだ」
一応知識としては学んではいたが、実際に使っているところを見たことはなかった。実際に自分が使うのだと思うと、気分が少しばかり高揚してきた。
スキルには例外を除いて二種類のものがあり、生まれながらにして持っている先天性のものと、環境に適応しようとしたり訓練やその者の思想などで、後天的に発現する物の二種類である。
「これはスキル鑑定紙って物だ。この紙を握りながら、スキルのことを考えてごらん。スキルの名前と、どんなスキルなのかが浮かんでくるはずだよ。先天性のものは赤文字で、後天的のものは黒文字で浮かび上がってくるはずさ。まあ、先天性のものなんて滅多にないんだけどね」
そう言うと、レインに一枚の紙を渡した。レインは言われた通りに紙を握り、スキルのことを考える。すると、紙に文字が浮かび上がりレインの持つスキルが明らかになった。
「おー、先生何か浮かんできました。しかも、赤文字が二つもありますよ」
レインの言葉に少し驚き、スキル鑑定紙を覗き込むと確かに赤文字が二つもあった。片方はヴェアですら見たことのない文字で書かれていたため読めなかったが、もう片方は人族の文字で【生命力変換】と書かれていた。説明欄には、[生命力を筋力、忍耐力、魔力などに変換できる、逆もまた然り]と書かれていた。
「なかなか便利そうなスキルじゃないか。この読めない方のスキルも、レインが何かしら自覚したら使えるようになるはずだよ。良かったね二つも先天性スキルがあって」
「黒い文字も二つありますよ。隠れ身と解錠level2ですって」
「きっとあの部屋に入ろうとした時に身に付いたんだろうね」
その話を出されて、レインは笑って誤魔化した。それを見てヴェアも可笑しくなり、一緒になって笑ってしまった。
スキルの解明が終わると、いつも通りヴェアとの戦闘が始まった。いつもと少し違うのはスキルも使用した戦闘となった事だ。序盤は、慣れないスキルにも頭を割きながら戦闘を行うことに戸惑いはしたが、回数を重ねるごとにだんだんいつもの動きに戻ってきた。
「だんだん慣れてきたみたいだね。じゃあもう少し上げていこうか」
そう言うとヴェアの動きが格段に早くなり、攻撃が重たくなった。レインはそれに対抗すべく、スキル【生命力変換】を使用し生命力を少し筋力と魔力に変換し、ヴェアの攻撃にかろうじて反応し防ぎきる。しかし、防ぐのが精一杯で反撃することが出来ずにいた。
「ほらほら、防いでばっかじゃ勝てないよ。そんなもんかい、反撃してごらんよ、こんなんじゃ今後の修行は、もっと厳しくした方がいいかもね」
「これ以上、厳しくされたら、死んじゃいますよ」
「なんだい、喋る余裕があるなら反撃してみな」
「くっ…」
(このまま守っているだけじゃだめだ。もう少し生命力を筋力と魔力に変換して…だめだ、それじゃまだ足りない。そうだ、勝つのは無理でも一撃当てるだけなら…よし)
戦いながら思考をめぐらせレインは、一つの策を思いつく。【生命力変換】を使用し忍耐力を多めに生命力へと変換し、その変換した生命力も含め半分程度生命力を筋力と魔力に変換した。ただし、今までは全身の筋力を上げていたが、今回は下半身の方を多めに強化し敏捷性を上げ、今まで出力を抑えながらも、全身に満遍なく巡らせていた魔力を下半身、脳、眼球に集中させさらに敏捷性、反応速度、動体視力を強化してヴェアに対抗する。
「おっ、なんだい随分と早くなったね」(反応がよくなって反撃してくるようになったね、スキルで敏捷性と反応速度でも上げたのかな。こんなすぐに対応してくるなんて、だいぶ成長してきたね)
「どうですか、これなら一撃も入れられそうですね」
咄嗟の判断でヴェアの猛攻を耐え抜きさらには、反撃をしてみせた。今度は、強化したレインが猛攻を仕掛ける。しかし、ヴェアはそれを全ていなしてしまう。
「いい感じだけど、まだ足りないね。それに、そんなに長くは持たないでしょそれ」
(まずいバレてる。なら次の一撃に全魔力を足に集中させて一撃入れてやる)
レインは一度距離を取り、助走をつけ一気に距離を詰めヴェアの懐に潜り込む。ヴェアもそれに反応して攻撃をいなそうとする。
「いい動きだけど、攻撃が単調で読みやすいよ」
ヴェアがレインの攻撃をいなそうと構えた瞬間、ヴェアの視界からレインの姿が消え、一瞬戸惑い隙を見せてしまった。背後に気配を感じすぐさま腕でガードをする。なんとかレインの攻撃をガードすることが出来たが、腕にダメージを負ってしまった。
攻撃に成功したレインは、そのままその場に倒れ気絶してしまっていた。強化していた足は無事であったが、ほとんど強化していなかった腕は変な方向に曲がり、目や耳から血を流しながらも、とても満足そうな顔をしていた。
「少し無茶させすぎたかね」
今日は、レインが初めてヴェアに一撃入れることができた記念すべき日となった。
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