一章5話 せめてもの家族感
ヴェアがレインを任されてから4年が経過した。もうすっかりレインも大きくなり、白い肌と真っ黒な瞳に真っ黒な綺麗な髪が特徴的な子供に成長していた。
あれから一度も、魔族に遭遇することはなかったが、魔族の捜索はいまだに続いている。しかし最近は、諦め始めたのか捜索する魔族の数が減ってきていた。
しかしあれ以来、地図に載っている、魔王アラルの目の届きそうな場所方面への外出を禁止としたことにより、ヴェアを含めた村の者全てがそのことを知る由もなく、レインが4歳になった日からヴェアはレインに生き残るための知識を教え、そしてヴェアが持つ戦闘技術を叩き込むのであった。
「さあ、今日は前回やったことのおさらいからだ。じゃあまず魔力について覚えてることを言ってごらん」
「はい、えーと、生き物には魔力の核があって、そこから魔力を出して使います」
覚えた言葉を使い一生懸命説明している姿に、思わず笑顔になってしまうヴェアだったが、すぐに凛とした表情に戻し、今は母の代わりとしてではなく、先生として向き合わねばと自覚し直した。
「だいたいそんな感じで合ってるけど、何事も正確に覚えておくと後々役に立ってくる事もあるから、しっかりと覚えるんだよ」
レインは、少ししょんぼりとしてしまった。それを見てヴェアは慰めたい気持ちをぐっと堪え、表情にも一切出さないよう努めた。
「いいかい、魔力っていうのは、この世の生きている者や生きていた者全てが持っているものだよ。使う時は、体のどこかに一つだけある魔力核から魔力を出して魔法や身体強化とかに使う、レインも大体は正解だよ、だからあんま落ち込むんじゃないよ。まあ例外もいくつかあるけど」
厳しく教えようとしていたが、結局甘くなり慰めるようにレインに教える。しょんぼりとしていたレインも、にっこりと笑った顔でヴェアの話を聞いていた。それを見てヴェアは、少し気恥ずかしそうにしながら咳払いをする。
「とにかく、まずは自分の中にある魔力核を見つけること。この前は出来てなかったけど、今日はきっとできるよ。ほら頑張りな」
「はい、わかりました」
レインは、素直で元気な返事をしその場に座り目を閉じた。とても4歳とは思えぬ集中力に初めこそ驚いたが、ヴェアは今まで子供の面倒を見た事がなかったため、こういうものかと納得してしまった。
レインが自分の魔力核を探し始めて一時間が経過した。そろそろレインの集中力の限界だと思い、読んでいた本を閉じる。しかしそれは、そろそろ休憩にしようと話しかけようとした時だった。
「ふー、見つけました」
すごい量の汗をかきながら、とてもいい顔でヴェアを見上げる。それを驚いた顔でヴェアもレインを見つめ返す。
「もう見つけたのかい、すごいじゃないか。どこに感じた?」
レインは、心臓の少し右横あたりを指差しながら、疲れた顔で「ここ」とだけ言った。
「よし、じゃあそのまま魔力操作もやってしまおうか。魔力操作は簡単だよ、見つけた魔力核から体のどこでもいいから流してみな」
「えっ、あ、はいやってみます」
休憩だと思っていたレインは、ヴェアの期待の眼差しに逆らえず、疲れていながらも思わず返事をしてしまった。
レインは、以前勉強した血液が流れるイメージを思い出し、さっき感じ取った自分の魔力核から右手に魔力を流して見せた。
すると、右腕から右手にかけて、模様なようなものが濃く浮かび上がってきた。それをみたヴェアは驚いた顔をしながらレインの右手に触れた。
「これは驚いた、魔力路が随分と太いね…、いや、これは本数が多いんだね。どちらにせよレイン、お前は私より強くなれるかもね」
「本当、じゃあ僕強くなってヴェアのこと守ってあげるよ」
満面の笑みで言うと、ヴェアは思わず、修行中であることを忘れレインを抱きしめる。少しして思い出したかのように、小さな声で言い聞かせる。
「今は修行中だよ、ヴェアじゃなくて先生だろ、まったく」
「えへへ、ごめんなさい先生」
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