一章4話 レイン・ローズ
人族の女から赤子を任されたヴェアは、女を背負い赤子を抱き抱えいつも以上に警戒しながら村へと帰還するのであった。 道中魔物に何度か遭遇しそうになったが、女と赤子がいるのを考慮し、ルートを迂回しながら進み戦闘を一度もおこなわず、日が沈んだころに村へとたどり着く。
村に着くと、一人の人族が駆け寄って来た。
「お帰りなさい村長」
「あぁ、ただいまカム、警備ご苦労様。私が留守の間、特に問題はなかったかい?」
黒髪黒目の好青年で警備員のカムであった。
「はい、いつも通り特に異常ありませんでした。ところで、その背負っている方と抱えている赤ん坊は一体…?」
「なに、ちょっとした厄介の種さ」
少し困った表情をしながら空笑いをするヴェア。それを見てカムはそれ以上聞くことはなかった。
「そうでしたか、私にお手伝いできる事がありましたらなんでも言ってください」
「そりゃ助かるよ、じゃあ早速で悪いんだが、私の家の裏に墓作るの手伝ってもらってもいいかい」
「もちろんです、警備長に報告してから向かいますので、先に行って待っててください」
カムが警備小屋へ走っていくのを見届け、ひと足先に自宅へと向かった。
自宅に着くと、女を床に下ろし赤子を抱えたまま椅子へと腰掛けため息をつく。
「まったく、あんなに騒がしかったってのに一回も泣かないなんて、随分と肝が据わった子だね」
赤子は今もまだ気持ちよさそうに寝たままであった。
それを見てヴェアは少し呆れたように優しい笑みを浮かべるのであった。ただ黙って赤子を眺めているとしばらくして、向こうのほうからカムが走ってくるのが見えた。
「お待たせしました村長、穴掘りの道具と花も持って来ました」
「気が効くじゃないか。それじゃやろうか」
二人は家の裏にまわり、ヴェアは椅子に女を座らせ傀儡魔法を使い女に赤子を抱き抱えさせた。
「少しの間頼んだよ」
そう言うと、カムと一緒に墓を掘り始める。二人とも一言も話さず暗い表情でただひたすらに穴を掘るのであった。
穴を掘り終え女を埋めようと女の元へ近づき赤子を抱き抱えさせたまま抱き抱え、掘った穴へと入れ「あとは任せな」と言い赤子を抱き上げる。
すると、今まで一度も泣かなかった赤子が突然泣き出したのだ。それを見たヴェアは一瞬驚き、悲しそうな表情をし穴から少し離れる。
「カム、埋めてやってくれ」
「わかりました」
ヴェアはカムが女を埋めている間、泣いている赤子をあやすでもなくただ黙って抱きしめて、最後まで女の顔を見つめていた。
「村長、終わりました」
「あぁ、お疲れ様。ありがとうね」
「はい」
「そういえば確か、カムのとこに赤ん坊を寝かせる籠あったよね」
「ええ、うちの子もう三つになるので、使ってないのが一つあります。今とって来ますね」
「何から何までほんと助かるよ」
カムは、小さく会釈をして自分の家に向かって走って行った。
しばらくしてカムが、籠や綺麗な布など必要のものを持って来て、今は使わないからと一式貸し出してくれた。
ヴェアは、赤子を育てた経験はなかったが、年の功か知識だけはあったため自信満々であったが、それを見てカムは少し不安そうな眼差しでヴェアを見るのであった。
翌朝村中のものが、ヴェアの家に集まり頼んでいた品を受け取りに来た。それと同時に赤子の話を聞きつけさらに多くの者が集まってきた。皆この赤子の可愛らしさに魅了されていた。
そんな中、村の者の一人が訊く。
「村長、この子の名前はなんて言うんですか?」
それを聞いてヴェアは思い出したかのように答える。
「そういえば、なんて名前なんだろうね」
そう言うと、みんな呆れたような顔をしながら笑う。
ヴェアも一緒に笑いながら、どこかに名前が書いていないかと思い赤子が身につけていたものを見ると、布の端の方に何か小さく書かれているのを見つけた。
「レイン、この子はレインって名前みたいだ」
するとそれを聞いた村の者が言った。
「じゃあ今日からこの子は、レイン・ローズ君だ」
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