一章24話 始まり
「なっ、ど、どうして!?さっきと腕の大きさも形も違うものになってる」
気味が悪くなり思わず持っていた自身の腕らしきものを落としてしまった。そしてすぐに、自身の腕か確認するために落とした腕に魔力を流して確認する。
「大丈夫か?その腕はレインのものじゃないのか?」
「いや、この腕は僕の腕だ。魔力の流れ方が間違いなく僕のものであってる...。おかしいな、さっきまでと見た目が変わって見えたのはいったい何だったんだ...」
少しの不安要素を残しながらも、それでも腕がなくなってしまうのは困るという思いで再度腕を拾い上げアレスに直してもらうことにした。
「よし、くっつけたが何か違和感はないか?」
レインは腕をいろいろと動かし試してみた。少しいつもと何かが違うような気がした。レインが眉を顰めていると、アレスは少し心配気味に声をかける。
「どうした?なにか不具合でもあったか?」
「なんだかいつもと違うような気がするんだよね...。なんだろう、説明できないんだけどいつもとは明らかに違うんだよね」
「んー、動くのに問題ないならそれは後にしよう。そろそろ時間切れだ」
先ほどから聞こえてきていた壁に何度も衝突する音が徐々に大きくなっていた。アレスが箱に閉じ込めたものが今にも出てこようとしていたのだ。
二人が戦闘の構えをとると同時に、箱の中から閉じ込められていたものが飛び出してきた。それは先ほどまでの手の形をしたものとは、まるで様子が違うものとなっていた。
それには元あった手の原型はなく、ただのゲル状の塊となっていた。
二人はそれがどのようなものなのか、どう攻撃をしたら良いのか分からず、受けの姿勢で待ち構えていた。
すると不思議なことに、発声機関など持ち合わせていないように見えたゲル状の塊から、少しばかりの苛立ちと笑いを含んだ声が聞こえてくる。
「何なのだ貴様らは...、なぜ我の慈悲に逆らわんとする。そんなにも生き永らえたいというのか、今死んで仕舞えば楽だというのに...。貴様らは必ず後悔する、悲しみと絶望の中で一生後悔することとなるであろう」
アレスはただただ冷静にこの塊の話を聞いていた。そのうえで他愛のない話と断定し返答も反応も、一切することはなかった。
その反面レインは、わけのわからないものが理解の及ばない発声方法で語り掛けてくるこの状況に、少しの焦りと困惑、そして疑問から隙をつくってしまいそうになる。
「まぁよい、抗うのであればそれ相応の苦痛を与えて殺してやろう」
「お前はいったい何なんだ。何の目的があってここまで来た!」
レインが我慢できず塊に対して疑問を投げかけた。
「なんだ貴様、我に対して問いを投げるとは...。クックック、いいだろう!その勇気に免じて答えてやろう。我が名はアラル、魔王にして最強の魔族である」
二人は自身の耳を疑った。この塊は自身のことを魔王であると言った。何かの聞き間違えではないのだろうかとそう思っていた。しかし、違うだろうと、偽物であろうと、思ってはいてもなぜか完全に否定することはできなかった。
「本物の魔王アラルなのか?」
「分裂体ではあるが間違いなく魔王アラルである」
その塊は、レインの問いかけに対し凍り付いてしまいそうな、緊張感のある声で面倒くさそうに答えた。
「これ以上の問いかけは面倒だ。さぁ最後のチャンスだ。今すぐそこで横になるといい、そうすれば一瞬のうちに逝かせてやろう」
そういうと塊の大きさがだんだんと大きく膨れ上がっていった。
洞窟の道をふさいでしまうほどに大きくなると、そのまま壁を削り取りながら二人を押しつぶそうと突っ込んできた。
驚き立ち尽くしていた二人であったが、先にアレスがふと我に返りレインの背中を力強くたたくとただ一言「走れ!!」っと叫び二人は駆け出した。
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