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一章20話 別れ

 洞窟に着くと入り口付近にはアレスが立っていた。


「ご苦労様です。住人の避難完了しました。残りは二人だけです」


「そうか、ご苦労だったね。それじゃあ、もう一つだけお願いしようかな」


 この時のヴェアは、誰がどう見てもいつも通りのヴェアだとおもっただろう...レイン一人を除いて。


「ヴェア...どこにも行かないよね...」


 レインの意外な発言にヴェアは目を丸くしてしまう。しかしすぐに、とても柔らかく優しい笑顔を見せ、レインの前にしゃがみ両頬を掌でやさしく触れる。


「いいかレイン、ちゃんとご飯食べるんだよ。風邪や病気に気を付けるんだよ。強くなっても弱っちいままでもどっちでもいいけど楽しく自由に生きるんだよ。別に世のため人のために生きなっくってもいいんだからね。たとえあんたが良いことをしたって、悪いことをしたって、どっちでもいい。ただレインが楽しいと思ったことをするといい」


 ここまで黙って聞いていたレインであったが、困惑しながら少し震えた声で話を遮る。


「ち、ちょっと待ってよ。何言ってるのヴェア、こんなことしてないで早く避難しようよ...」


 レインの悲しそうな声を無視するようにヴェアは言葉を続けた。


「ただ、そうだね。できることなら、他人に優しく生きてくれると私は嬉しいかな。あれだよ、小さい頃よく読んであげた本あっただろ。悪者に連れ去られたお姫様を助けに行くってあれさ。あの本の主人公みたいに強く優しく生きてくれたら嬉しいね」


「わかったから!強く優しく生きるから!だからヴェアも一緒に...」


 一緒に逃げよう、と言いかけたレインであったが、ヴェアの瞳から涙が流れているのを見て戸惑ってしまった。初めて見るヴェアの弱気な姿。とてつもない強さと、長年生きてきたことにより身についた精神力。その両方を併せ持った、おそらく世界中どこを探しても彼女より優れている者はそうはいないであろう。そんな彼女のこんな顔は、想像もつかなかった。

 そんな姿を見て何を言ったら良いのか、何が出来るのか。今のレインには分からなかった。

 困惑するレインを見て少し面白く思ったヴェアは、思わず吹き出してしまった。


「フフッ、そんな困った顔してないで、レインの笑った顔を見せておくれ」


 ヴェアの切なそうな表情に、震えている手に、まるで最後を感じさせるその言葉に、レインはどうすれば良いかわからなくなり、結局レインが選んだ行動はヴェアの望んだ通りにすることだった。


「戻ってきたらまた修行つけてよ。魔法も覚えて今度こそヴェアに勝つからさ!」


 今のレインにとっての精一杯の笑顔でヴェアの望みにこたえて見せた。


「楽しみだね。その時は一切手加減しないから、そのつもりでいなよ」


 ヴェアはレインを強く抱きしめた。はたから見れば長い時間抱きしめたように見えたが、当の本人たちにそれは、ほんの一瞬の出来事のように感じられた。


「それじゃあ、行ってくるよ」


 レインは何も言わずただ黙ってうなずいた。この時のレインは嫌な予感とヴェアの態度を見て、何か良くないことが起こるのではないかという、想像程度に考えていた。

 この時のことを一生後悔するとは、今のレインには知る由もなかった。


「見苦しいところを見せたね。それじゃあ後のことは任せるよ」


 静かに周囲を警戒していたアレスは、ヴェアの言葉ににこやかに首を横に振った。


「安心してください。私は周囲の警戒に手いっぱいで、それ以外のことなど何も知りませんので」


「そうかい、それはよかったよ」


 そう言うとヴェアは立ち上がり、軽く体を伸ばすと「よしっ」と顔を掌でたたき軽く深呼吸をした。


「それじゃあ二人とも、楽しく生きなよ」


 そこにヴェアの姿はもうなかった。

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