一章19話 魔族というもの
軽くお説教のようなものをしながら、レインの傷を治癒魔法を使い完治させた。
「まったく、たまたま私がいたからよかったけどね。もしかしたら今頃死んでたかもしれないんだよ」
「ごめんなさい、次から気を付けます。そんなことより、さっきの何やったの?」
レインに反省の様子があまり見られず少し心配だったが、これ以上言っても変わらないと思いあきらめ、そしてため息交じりにこたえた。
「はぁー、まったく、ほんとに反省してんのかい?まあいいか、さっきのあれは魔法だよ。時限式魔力離散魔法と言って、名前の通り時間経過で仕掛けた奴の魔力を離散させるのさ」
「魔力を離散させただけでどうにかなるものなの?」
「そうか、まだ魔族の身体の構造について何も教えてなかったね。どのぐらい前だったか、魔族っていうのはね、元々その辺にいる魔物だった奴らなんだ。それがどういうわけか、ほかの種族の姿をまねするようになったんだ...」
レインは話の途中にもかかわらず、その時思いついた疑問を、そのまま話を遮るようにして口にしてしまった。
「その魔族の身体のことと、なんのかんけいがあるの?」
「焦るんじゃないよ。でだ、魔物達はほかの種族の真似をしようといろいろ試したらしい。四足歩行だった者たちは二足歩行をするようになったり、ほかの魔物と意思疎通を図るために言語を作り出したり、いろいろとやったらしいね。それで何とか形だけは、似せることができるようになったらしい」
少し長い話に耐えられず、レインは眠そうにウトウトしてしまっていた。そんなレインを見てヴェアは、やれやれといった表情で立ち上がった。
「ほら、眠いのは分かるけどこんな戦地で寝るんじゃないよ」
突然声を掛けられたレインは、ハッと目を覚まし、笑ってごまかしていた。
「いやー、ヴェアの話難しいうえに長いんだもん」
「ほんとこの子ときたら全く...。まあいい、とにかく移動するよ」
「あれ、続き話してくれないの?」
まさかのレインの発言に驚きを隠せずに、目を丸くしてレインのことをじっと見つめた。
「なんだい、あんなに眠そうにしてたのに聞きたいってのかい?」
「いやー、結論は聞きたいからねー。あはは...」
「まったくあんたって子は、調子いいねほんと。しょうがないから話してあげるよ」
調子のいいレインに対して面倒くさそうに、しかしどこか楽しそうに話し始めるヴェアであった。
「えーと、形を似せたとこまでだったね...。形を似せることに成功した魔物たちは、次に会話することを試みたんだ。これっがなかなかうまくいかないわけだ。その原因を探ろうと、魔物とほかの種族の死体を解剖して比べてみたんだ。するとどうだろう、魔物の発声器官に比べて、ほかの種族の発声器官のほうがとても複雑な作りになっていたんだ」
「へー、じゃあ発声器官の仕組みをどうにかして話せるようになったの?」
「いや、原因はそこだけじゃなかったんだ。魔物たちも発声器官が原因だと思って、それを移植したらしい。だけどそれだけじゃ、思った通りに会話ができなかったみたいだ。それでもう一度いろんな種族の死体を集めては解剖したんだと。今度は喉や口に限らず体全部をばらしてみた。するとどうだろう、魔物とそれ以外の種族とでは、臓器の種類も数も質もまるっきり違うものだったらしい」
ここまで話して、一度後ろを歩いているレインの方に目をやり、真剣に聞いている様子のレインを見て少し笑みをこぼした。
「どうかしたの?なにか問題でもあった?」
「いやなんでもないよ...。続きだ。ほとんどのものが違うと理解できた魔物たちは、どうすればよいか考えた。はじめはすべての臓器を入れ替えてしまおうと考えた者もいた。しかし、拒絶反応が強すぎて入れ替えた魔物はことごとく死んでいった。拒絶反応に困っているなかで、さらにもう一つの問題を思いつく。それは、脳をどうするかということだった。脳まで入れ替えてしまえば、それはもはや魔物の身体に他種族の意識が入っているだけではないのか...とね」
「あー、確かに。それだと意味がなくなっちゃうね」
「そうとも。だから臓器を入れ替えたりするのは、その段階であきらめられた。しかし、臓器の入れ替えが無理なら何か別の方法はないものかと、いろいろと方法を探したみたいだ。それでたどり着いたのが、魔力で他種族のそれとそっくりに作り変えてしまおうってことになったんだとさ。いつしかそれで出来上がった奴らのことを、魔族と呼ぶようになっていったんだ」
「そうだったのか...。あれ?でもそれなら、魔力を離散させても元あったものが残るんじゃないの?」
疑問に思ったことをすぐ口にしてしまう、ヴェアの前だと年相応の行動を見せるレインであった。
「そうなんだ。そこがまた面白いところで、初めのころは元あったものに肉付けする形で真似していたんだ。それがだんだん世代を重ねるごとに、元あったものが魔力に変異していったんだ。今となっては、元々あったものが残っている魔族なんていないんじゃないかな」
「なるほど、そういうことだったのか。じゃああれは、まぞくの体内のものを魔力離散で消したってことか」
「そういうことだよ。さて、そろそろ避難用の洞窟につくかな」
話の切りが良いところで、緊急避難用の洞窟に到着した。
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