一章1話 起
世界の8割が魔王アラルによって支配されて千年、アラルの慈悲によって生かされた種族達は、種族ごとの区画に分けられ例外を除く一切の交流を禁じられ、奴隷のような日々を送っていた。
生かしておく条件として半月に一度、各種族ごとにそれぞれ献上品を納めさせるようにした。献上品は、各種族ごとによって異なるが、獣族からは狩や畜産で得たものを、耳長エルフ族からは森の幸を、小人ドワーフ族からは鉱石類を、海人族からは海の幸を、人族からは農作物を大量に納めさせている。
しかし時には、規定の量を収めることができない場合もあった。
そんな時は区画の者全員で話し合いをして、一人選び魔王に差し出させる生贄制度を設けることで、魔王アラルはその醜い争いを楽しみノルマ未達成をよしとすることとしていた。
そんな中、魔王アラルの支配から逃れ生き延びた者達もいた。
その者達は、地図にも載っていない未開の地とされている場所で、逃げ延びた者同士で協力し合いながらひっそりと隠れて暮らしていた。
そこには、様々な種族が暮らしておりその全員が協力しあって暮らしていた。
その村には今日も平穏な一日が訪れていた。そんな中、頭を抱え悩んでいる一人の耳長族がいた。
「んー、どうしたものかなー」
この綺麗な赤く長い髪をした耳長族の女は、村長のヴェア・ローズ、千年以上も生きているこの村唯一の耳長族であり、この村で最も頭が良く最も強いと言われている。
そんな村長のもとに一人の小人族がやってきた。
「おはようございます村長、何をそんなに悩んでいるんですか?」
「あぁ、おはようレガスさん、それが最近村の近くで魔物の活動が活発になってきていてね」
そこに立っていたのは、身長こそ小さいががっしりとした体つきが特徴である、小人族のレガス・グァバであった。
「それは困りましたね、村の中は村長の結界で守られていますから心配ないでしょうが、それでは狩りが難しくなってしまうかもしれませんね」
「そうなんですよ、丸切りできなくなる訳ではないでしょうがだいぶ危険ですからね、できれば危なくなる様な事はしてほしくないんですよ」
またも頭を抱え悩んでしまうヴェアだったが、ふと思い出したかの様に続ける。
「そういえばレガスさん、何か用事でもあるのかい?」
「おーそうだった、忘れるところでしたよ。何やら魔王城の方が騒がしいみたいでして、聞くところによると女が子供を連れて逃げたらしいですよ。それで魔王が捜索させてるみたいで、流石にこの村の方までは来ないだろうでしょうが、一応報告しておこうかと」
それを聞いたヴェアはさらに落ち込んだ様子になる。
「はぁー、ただでさえ危ないってのに、これじゃあ誰も村の外に出せないね。全く困ったもんだよ」
「そうですなー、まあ幸い村の中だけでも生きていけないことはないだろうから、落ち着くまでの辛抱ですな」
「よし、私が支配区画まで行ってくるから、今から村の者に必要なものを聞いてきてくれないか」
「それはありがたい、早速聞いてきます」
そう言うとレガスは急ぎ村長宅を後にする。
ヴェアは大きなため息をつくと、近くにあった本を手に取りおもむろに開き読み始めた。
「村長、起きてください村長」
「んー、なんだい」
「なんだいではありません、もう夕方ですよ。そろそろ出発する時間じゃないんですか」
そう言われヴェアが目を開けると、そこにはレガスがいてすでに日が陰っていた。
「んー?あー、なんだレガスかい。もうそんな時間か、村のもんには聞いてきてくれたのかい?」
「しっかり聞いてきましたよ、ここに全てメモしてあります」
ヴェアはれガスからメモを受け取ると立ち上がり、収納魔法を使いメモをその中にしまい、自分の頬をパシッと叩く。
「よし、じゃあ行ってくるかな」
「よろしくお願いします」
ヴェアは支配区画に向かうべく出発するのだった。
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