一章18話 到達できぬ壁
レガスの言葉を振り切り、急ぎヴェアのもとへ駆けつけようと飛び出したレインであった。ヴェアがどこにいるのか探すのはとても簡単なことであった。大体一番激しく戦闘をしている場所にヴェアがいるというのは最早常識として知られていたからである。
激しい爆発音が聞こえてくるほうへと向かうと案の定、ヴェアが数人の魔族たちと戦闘を繰り広げている最中であった。一人の魔族を中心に他数人の魔族が連携することでヴェアと互角に戦っていた。
ヴェアを見つけることができたレインは、喜びと安心感で胸がいっぱいになり、あろうことか戦闘の渦中であるヴェアのもとに飛び出してしまったのであった。
その行動をとるか否かが運命の分かれ道だったのかもしれない。
「ヴェア...!」
短くそう声に出したその時だった。なにかがレインの左足の腿のところを貫き、大きな風穴をあけた。
反応できなかった。それどころか全く見えていなかった。レインは左足がうまく機能していないことに気づけず、普段通り走ろうとしてしまい、それに失敗して前に勢いよく倒れこんでしまった。
戦場で足を止めた者は真っ先に殺されてしまうと言われている。それも、周りにはレインよりも圧倒的に格上であろう者たちばかりの戦場であるならばなおさら。
倒れたレインに気づいた魔族の一人が、無慈悲にもとどめを刺そうと握っていた槍を投げ放った。
(うわー、やっちゃったー。落ち着けって忠告ちゃんと素直に聞き入れとけばよかったな。これでも一応冷静に行動していたはずだったんだけど...、ヴェアを見てとりみだしたかな。はぁー、また死ぬのかー。いやだなー、死にたくないなー...。ん?なんだ?また死ぬって、変な言葉だな。そういえば、あれはいったい何だったんだろうか。やっぱり一回死んだのか?まぁもう死ぬんだからどうでもいいか...)
レインは死の間際、いつもよりも短い時間で多くのことを考えていた。まるでレインの頭の中だけ、時間の経過速度が遅くなっているようだった。
レインが死を覚悟した次の瞬間、飛んできた槍が地面にめり込み、それと同時にレインの目の前数メートル程の地面も一緒に沈み込んだ。
魔族もレインも驚きを隠せずにいた。おそらくヴェアの重力操作魔法によるものであろうが、まさかレインのほうを見ずに数人の魔族を相手にしながら、レインに被害が出ないように正確に槍の周囲のみに魔法を発動させた。
さらに驚くべきはヴェアは一度もレインのほうを見ていなかったことにあった。魔法を発動させるには、その魔法の術式知識と正確に魔力を扱う集中力、そして発動させる場所を視認するもしくは発動場所を強くイメージする必要がある。魔力操作に集中力を割きながらも発動場所を強くイメージし、レインに何の被害もなく発動させた。常人であれば脳が三つ四つは必要な離れ業であった。
「この数の精鋭魔族相手に余裕そうだな」
ヴェアと戦っていた一人の魔族が皮肉のつもりで言葉を放った。しかしヴェアは、その言葉を鼻で笑い飛ばし、人差し指をくいくいと動かしかかって来いと逆に挑発して見せた。
「バカ息子が来ちまったみたいだし、そろそろ終わりにするかな」
その言葉により、一瞬にして魔族たちは各々が持つ力をすべて解放した。
(なんだこいつら、僕が戦ったベンドとかいう奴と同じぐらいかそれ以上に強いんじゃないか...)
力を解放した魔族達が、一斉にヴェアへと攻撃を始める...はずだった。
突然そこにいた魔族達全員が倒れだした。その場にいてしっかりとみていたはずのレインにさえ、何が起こったのかさっぱり理解できなかった。
(何が起こったんだ...。ヴェアがなにかしたんだよなきっと。でもヴェアは、魔族に近づくどころか体のどの部分も動いてすらいなかった。いったい何をしたって言うんだ)
そんなレインが驚いていることなどつゆ知らず、ヴェアが怒ったような表情でレインに歩み寄ってきた。
「家で待ってるように言ったよね?何でこんなところにいるんだい?」
「違うよ。ヴェアは家から出るなって言っただけで、家で待ってろとは言ってないよ」
レインが屁理屈というか揚げ足取りのようなことを、笑いながら言うのを見てヴェアは少しあきれたようなため息をつき、にっこりと笑いながらレインの頭にげんこつを入れた。
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