一章17話 再出
絶命していたレインが目を覚まし、急ぎ家まで戻りボロボロになった服を着替える。家に戻る道中、誰にも見つからないように慎重に歩みを進めたが、村の住人や生きている魔族一人にすら会うことはなかった。
着替え終わると、ベッドに横たわりながら本を広げていた。まるで、今日はずっと本を読んでいたかのように。広げた本の一ページに目をやってはいるが、頭の中は戦った魔族のことや、死んだと思っていたら生きていた自分自身のことでいっぱいであった。
(たしかにあの、ベンドとか言う魔族に負けて死んだはずだったのに、なんで何事もなかったように傷も何もかもなくなってるんだ...。誰かが治してくれたとか?いやいや、死者を生き返らせるなんて聞いたことがない...)
いろいろと考えていると、何やら外が騒がしい事に気がつき、窓の外を覗いた。すると外には続々と家から荷物を持って出てきていた。
それを見たレインは、何事かと家を飛び出し辺りを見回した。困惑し何が起きたのだと考え込んでいると、小人族のレガスが少し焦った様子で話しかけてきた。
「何をそんなところに突っ立っているんだレイン。あの狼煙が見えないのか」
そう言うとレインの後ろを指差し、レインが慌てて振り向くととてもよく目立つ赤色の煙が立ち上っていた。緊急避難の狼煙が挙げられていたのであった。
そう言ったものがあると言うことは、だいぶ前にヴェアから教わってはいたが、その時は滅多に上がることのないものだと教えられていた。
それもそのはず、大抵のことはヴェアがいれば何の問題もなく、何事もなく解決されるからである。たとえ村の周りを魔物に取り囲まれ襲われようと、村中の建物が一斉に火事になろうと、近くの火山が噴火しようと。何事もなかったかのように解決される。
にもかかわらず、今あの赤い煙が立ち上っていると言うことは、そんなどんなことでも解決してしまうようなヴェアでさえ解決することができない問題が発生したと言うことに他ならなかった。
今もなお生きている理由を考えることにいっぱいだったはずのレインの頭は、すでにそんなんことは忘れ去られ別のことを考えていた。
「レガスさん、ヴェアに何かあったの!?」
ヴェアに何かあったのではないかと思い、思わず取り乱しレガスにつかみかかる。
「落ち着け!まだヴェアに何かあったと決まったわけではないだろう」
そんな取り乱すレインを落ち着かせようと、肩を強くつかみいいきかせる。
「じゃあ、一体何があったって言うんだ。ヴェアに解決できない問題が起きたからあの狼煙が上がったんだろ。もしかしたら、ヴェアの身に何かあったから解決できなくなったってこともあるかもしれないじゃないか」
落ち着かせようと言葉をかけたつもりが、さらに冷静さを欠いてしまった。レガスは、やむを得ずレインのほほを掌でうち、呆けた顔をしたレインに再度言葉をかける。
「落ち着いたかい。レインが不安になる気持ちもわかるよ...、けど今は落ち着いて行動するんだ。大丈夫君にならできるさ、なんたってあのヴェアの子なんだからさ」
レガスの言葉にハッとさせられ、先ほどまでよりかは冷静さを取り戻したように見えた。
「ありがとうございます。もう大丈夫です、冷静になれました」
「よし、それじゃあ一緒に避難しよう。私の後ろについてきてください」
一瞬の出来事であった。レガスがレインから目を離したのはほんの数秒であった。レガスが再度レインのほうに視線をやると、そこにはレインの姿はなく、代わりに地面に強く踏み込んだであろう跡が残されていた。
すべてを察したレガスは、ただ呆然と立ち尽くしていた。
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