一章16話 再度灯る
自信に満ち溢れていた魔王の側近マゴル・ボルバであったが、ヴェアの圧倒的な力を前になすすべなく地に膝を尽かされるのであった。
「もう一度聞くよ。この騒動の総大将はどこだって聞いてんだよ」
麗しい見た目からは想像できないような、どすの利いた声で威圧的に再度問いかける。
「へっ、そんなこと聞かれて、素直に答えるとでも思っているのか?」
マゴルは、ボロボロで今にも崩れてしまいそうな状態に陥っても、掠れた声で強気に返答する。そんなマゴルを見てヴェアはため息を一つこぼし、少し柔らかい表情で再度問いかけた。
「そんな最後の最後まで面倒をかけるんじゃないよ。じゃあ仕方ない、少し無理矢理にでも教えてもらおうかな」
「ふん、拷問でも何でも好きにすればいい。何をされようと口を割るつもりはない」
ヴェアを小馬鹿にしたように鼻で笑い、限界が近づいてきたのかそのまま背中から地面に倒れた。
「別に口を割らなくたっていいさ。この魔法気分が悪くなるから、あんまり使いたくはないんだけどね」
そう言うとヴェアは、マゴルの頭に触れ静かに目を閉じた。ヴェアの手からマゴルの頭へと魔力を流していた。ほんの数分魔力を流していたかと思うと、突然何かを感知した様子で目を見開き流していた魔力を糸のように引き抜き、そのまま自身の手へと戻した。
「なるほどね、だいぶ面倒なのが来たね…。じゃあね、えーと名前忘れちまったな。まっ、もう聞こえていないか」
脳をいじられたマゴルはすでに事切れていた。
記憶を読み取ったヴェアは、少し焦った様子で村のみんながいる方へと全速力で戻りだした。今までは自身の身体能力を魔力で強化して移動していた。今となっては、そんな先ほどまでの速度がまるで児戯であったかのように。それはまさに瞬間移動と言っても過言ではなかった。
ヴェアが通ってきた痕跡がくっきりと残っていた。通り道にいた魔族はとても綺麗な赤い直線へと姿を変えていた。防衛線の最前列にいるアレスの元に辿り着く。
アレスは突然近くにヴェアが現れたことにも全く驚いた様子はなく、それどころかヴェアが戻ってきたのを見て少し安堵し気が抜けたようにも見えた。
しかしヴェアは、そんなアレスの安堵とは裏腹に何やら焦った様子で言葉を飛ばした。
「今すぐに村のもん全員逃げるように伝えてこい!」
ヴェアからの予想外の言葉に驚きと困惑を覚えたアレス。しかし、すぐさま切り替え、何も言わずに村の方に向かって走り出していた。
ヴェアは他に村を守っている者たちにも、アレスと同じように言葉を伝えていった。焦りをあらわにしたまま行動し続けるヴェアであった。それに、何か良くないことが起こるのではないかと言う予感がしていた。
(なんだ、特に根拠のない悪い予感がする…。いや、考えすぎか。もしあいつがきているなら、もうここが無くなっているはず…。まだ私たちが生きてるってことは、まだ近くにはいないってことだろうしな。いやしかし、何だこの妙な胸騒ぎは…。まさかレインに何かあったんじゃ–––。そんなわけないか、あの子は今家にいるはずだし、あの子がその辺の魔族にやられるはずもないか)
まさか、そのまさかな事態になっていたとヴェアが知ることは、生涯なかったのであった。
レインの命の灯火が再び灯された。
気がつくとあたりには誰もいなかった。そのことも気になったが、もっと気になったのは自身が負っていたものが全て、綺麗さっぱり無くなっていたことに驚きと困惑を隠せずにいた。
怪我が治ったと言うよりも元からそんな怪我がなかったかのように、離れ離れになった上半身と下半身も治療痕などは一切確認出来ず、元から離れ離れになどなっていなかったかのような状態に、心底驚き心底困惑しそして、心底安堵した。
「何でかわかんないけど、とりあえず急いで家に帰ろっと」
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