一章14話 美しき戦士
レインの命が潰える少し前。ヴェアは押し寄せる魔族の群れを次々に潰していた。ほとんどの魔族を一撃で絶命させ、数の振りをまるで感じさせることのないものであった。
「何だあの化け物は、あんな奴がいるなんて聞いてねぇぞ」
戦場に存在していたはずの、どこかの魔族がそんなことを言っていたが、もはやそんなことを言うことはできない存在となっていた。
魔族たちは恐怖を感じながらも、無謀と分かっていてもひたすらに立ち向かい続けていた。別に魔族全員が、頭が悪くて無謀に立ち向かっているわけではない。こんな無謀な攻撃の裏には、ある者の強力なスキルが関わっていた。魔王アラル・ウォックの【魔を率いる君主】と言うスキルが、魔族たちを強制的に戦うことを、たとえ恐怖や苦痛などを感じたとしても戦うように、強力な洗脳のようなものをかけられているのである。
「おいお前ら、あいつを取り囲んで全員で一斉に叩くぞ」
これから蹂躙されるどこかの魔族が、他の魔族に策を提案し、他の魔族たちもその提案に賛同し、ヴェアの周囲を十数の数で囲み一斉に攻撃をした。
(いくら化け物でも、一回にできる攻撃にも限度があるはずだ。殺せないにしても、せめてもの手傷を負わせてやる)
そんな思惑など知ったことではないと言わんばかりに、ヴェアが重力操作魔法を行使すると、取り囲んで攻撃していた魔族たちは一瞬のうちに地面に叩きつけられ、原型を留められずグチャグチャに潰れてしまった。
「まったく、キリがないね…。そろそろ指揮を取ってるやつを獲りに行きたいところだけど、私がここを抜けると一気に村の方まで流れていきそうだな…。さて、どうしたものか」
などとぼやきながら、ペースを落とすことなく魔族を次々と屠っていく。すると、後ろの方からヴェアを呼ぶ声が聞こえてきた。
「村長!加勢します!」
「アレスか!よくきてくれた。ここを任せてもいいかい!?」
「わかりました。ここは俺に任せてください!」
アレスが返事をする前に、ヴェアはものすごい速さで魔族の群れの中へと突っ込んでいった。
ヴェアが遥か向こうに行ってしまったのを見るとアレスは、背負っていたアレスと同じぐらいの長さの棍を手に取る。その瞬間、アレスの音が一切合切消えてなくなったように感じた。実際に完全には消えてはいないが、そんな静けさと美しさがそこにはあった。
その場にいた魔族たちは、あまりにも美しい構えに呆然と立ち尽くし見入ってしまっていた。
アレスが完全に構えると、先ほどまでの静かで美しいものが一瞬にして一変する。それは瞬く間に、殺気と力強い気迫に変わり魔族たちに緊張感を与えた。
そんな中一人の魔族がハッと我に返り他の硬直している魔族たちに声をかける。
「おいお前ら、何硬まってんだ!あんな奴全員でかかればなんてことないだろ!」
これをきっかけに、他の固まっていた魔族たちも一人の青年に向けて構えだした。
「お前ら、今度はあの女の時みてえにならねえように数増やして三回に分けて波状攻撃で行くぞ」
ぞろぞろと魔族がアレスを取り囲むように陣形を整える。
そんな中アレスは、構えをとったまま微動だにせず魔族の攻撃を待っていた。
「行くぞお前ら!潰せー!」
一斉に押し寄せる魔族。前方からは剣を振りかぶる者が四つ、左右それぞれから槍でつこうとする者がそれぞれ二つずつ、後方から斧で叩き割ろうとするものが三つ、それぞれの攻撃がほぼ同時にあたろうとしていた。
しかし次の瞬間、後ろで次に攻撃を仕掛けようとしていたものたちが目撃したのは、とても信じられないものであった。
なんとアレスを攻撃していた魔族たちは、気づけば魔族どうしが互いの武器でそれぞれ攻撃しあっていたのである。これに驚いた後ろで構えていた魔族たちは、困惑し動けずにいた。これにより、考えていた波状攻撃は完全に失敗に終わってしまった。
「なっ、何だよあれ…。何で味方同士で攻撃してんだよ」
見たことのない不気味な光景に、恐怖すら覚える者もいた。
「どうしたんですか、まさかもう終わりですか?」
落ち着いた口調で周囲の魔族に話しかける。
その目はとても静かに、しかし強い殺意を宿した、そんな目をしていた。
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