一章13話 吹かれる灯火
ベンドは驚きを隠せずにいた。
(まさかこの僕が、警戒を怠ったと言うのか。そんなはずはない。いつ攻撃がきても対応できるようにしていたはずだ。なのになぜ...)
ベンドは、自身のほんの少しの緩みに気づいてはいなかった。気づいていなかったと言うより、認めたくはなかった。と言う方が正しい表現かもしれない。
今までベンドに攻撃を通したものは決して多くはなかった。それでもそれを可能にしてきたものは、熟練の猛者ばかりであった。それを今日、こんな戦場に初めて来たような、フードではっきりとはわからないが、おそらくまだ子供であろう者に致命傷を負わされようとは。
「逃げたんじゃなかったんだな」
「まあね。最初は僕の最速で攻撃して仕留めるつもりだったんだけど、何となく難しいかなって思ってさ。だからあんたの油断したとこを攻撃することにしたんだ。いやー、でも少しヒヤヒヤしたよ。なかなか隙を見せないんだもんね。まあでも、結果は僕の粘り勝ちだったね」
レインが勝利を確信し喜んでいると、ベンドが不敵に笑い出した。
「クックックッ。そうだな、認めたくはないが、僕は少しばかり警戒を緩めてしまっていたようだな。だけどな、お前は間違えている。どうやらお前はもう勝ったつもりでいるようだけど、勝負はまだ終わってないんだよ」
「何言ってるんだ。右上半身を吹き飛ばしてやったんだぞ、こうして会話するのも難しいはずだろ」
「確かに、普通の魔族ならこれで終わりだったかもな」
次の瞬間、ベンドの傷口から魔力の光が伸びたかと思うと、吹き飛ばされた右上半身は元の状態に治っていた。
レインは目の前で起きたことをまだ理解できずにいた。決して見ていなかっただとか、そう言った事はなかった。しかし、今まで読んできた本にもこう言った類のことは書いていなかったし、ヴェアからも聞いたことはなかった。
(さっきのあの光、あれは多分魔力の光だ。回復系のスキルか魔法か?いやでもあの傷を完璧に治すには、相当な量の魔力を消費するはず。と言うかそもそも、あんなダメージ食らって平然と会話をしてたことからおかしいよな。何か別の何かがありそうだ…)
「おいおいどうした。そんな難しそうな顔をして、具合でも悪いのか?さっきまであんなに嬉しそうにしていたのに、残念だったな」
「なんであんなダメージ食らってまだ生きてんだよ」
「何でって、そんなの決まってるだろ。教えねーよ、ばーか。じゃあそろそろ再開しますか」
(どうする、逃げるか?いや、今の僕の状態でこいつから逃げ切れるイメージが湧かない。一応逃げることも考えて少しは力を残してはいるけど、予想以上にあいつが強すぎたな。あっちに村の人たちもいるけど、相手の数が多すぎてこっちまで来れそうにないし…。こんなことなら戦いながら他の魔族の数減らしておくんだったな)
「これは、ちょっとまずいかな」
考えがまとまらぬうちに、ベンドがものすごいスピードでレインに接近してきた。右の手をレインの顔目掛けて突き出してきた。それをかろうじて、壊れた右腕で振り払い後ろへ飛び回避する。壊れていた右腕がぶちぶちと音を立てながら曲げられ、今まで感じたことのない痛みがレインを襲う。
そんな痛みに悶える暇もなく、ベンドが距離を詰め攻撃を仕掛けてくる。
レインは残っている魔力を、脳と眼球に集中させ何とか攻撃を避け続けた。しかし、何度も避けているうちに段々と魔力が少なくなり、反応が遅れ左の腕も曲げられてしまっていた。
攻撃を躱してるうちに、気づけば周りに誰もいなくなっていた。
そうこうしているうちに、レインの体力が限界を迎え足が止まってしまった。
「なんだ、もう限界なのか?じゃあそろそろ終わりにするか。全くこんなところまで逃げやがって。かわいそうにな、死ぬ時に誰にも見ていてもらえないなんて。だけど心配するな、僕がしっかりと見ていてやるから…、お前の死に様をな」
ベンドの右の手がレインの腹に触れ、レインの上半身と下半身が離れてしまった。
レインは薄れていく意識の中で、ヴェアと過ごした長いような短い時間を思い出していた。
(あーあ、もっとヴェアと一緒にいたかったな…)
7歳と数ヶ月という短い年月生きた命の灯火が静かに消えていった。
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