一章11話 側近
「7歳の子供だって!?んなガキがこんな強いってか、おまけにその年で殺しを楽しむなんて、俺が言えた義理じゃねぇが、お前さんなかなかイカれてんな」
「いかれてる?僕が?そんな事はないだろ、そこの二人を殺すのだって一撃で終わらせてあげたんだよ?とても優しい事だと思うけどね」
魔族は今、どうすれば生き残れるか必死になって考えていた。この子供と向き合うまでは、どう殺してやろうかと考えていたが、今はそんな事一切考えもしなかった。戦闘になってもとりあえず、少しでも抵抗するために飛ばされた腕を新しく生やして直した。
「へー、本では読んだけど、魔族って本当になくなった腕も生やせるんだね。他の種族だと、自分で生やすのは難しいって書いてあったけど、魔族ってなかなか面白いね」
さっきまでの恐ろしさとは打って変わって、まるで珍しいものを面白そうに見る、見た目通りの子供のようだった。そのひとときの緩みに乗じて魔族が話しかけた。
「な、なあ。あんた、いやレインくんは、どうしてこんなところにいるんだい?」
「どうしてって、そりゃ魔族が攻めてきたって聞いたから、実際にどのぐらい戦えるのか試してみたくてきてみたんだけど、一瞬だったから全然試せた気がしないな」
「そうだったのか。じゃ、じゃあちょうどいい相手がいるから、よかったらそいつのとこまで案内するぜ」
生き残るチャンスを見つけた魔族は、必死になって自分の存在価値を説明する。うまくいけば案内した先にいる同族達とレインを倒すことができると考えていた。
普段のレインであれば、これが罠であるという考えに至ったであろう。しかし、今のレインは初めての魔族との戦闘に、殺しに、今まで感じたことのない何とも言えない高揚感に酔いしれていた。
「いいよ、さっさとその相手のとこに案内してよ」
(よし、どうやら俺にもまだチャンスはあるみたいだな)
魔族は宣言通りレインを同族の、それも自分よりも格段に強いものがいるところに、得意の【魔力感知】を使用し案内するのであった。案内の途中、向かっている方角とは別の方角の同族の反応が、ものすごい勢いで消失していることに気づき、そのことに少し疑問を覚えたが、今はそんなことよりも自分の身の安全を守ることに精一杯だった為、気のせいだろうと自信を納得させた。
それから少し進むと、魔族の軍勢と村の住民が戦っている場所についた。戦っている村の住民は、数こそ少ないものの一人一人がかなりの強さをしているため、大量の魔族軍に一方的にやられると言う形にはなっていなかった。
「ついたぜ、あそこにだるそうに立ってるやつがいるだろ、多分ここにいる魔族の中でも結構強いやつだ。あいつならあんたの力量を測るのにちょうどいいんじゃ———」
気づくと魔族の視界は、先ほどまで見ていた戦場から空に変わっていた。レインが魔族の話しの最中に教えられた魔族に向かって飛び出していったのだ。飛び出すついでに、案内をさせていた魔族の頭を掴み、胴体から脊柱ごと引き抜き、そのまま教えられた魔族めがけて真っ直ぐに投げたのだった。
しかし、投げた魔族の脊柱付きの頭は脊柱の部分が空中で霧散してしまい、標的にしていた魔族の手前の魔族の頭にあたり、投げた頭もろとも弾け飛んでしまった。
レインは予想外の出来事に少しだけ驚いたが、あまり気にせずそのまま標的の魔族の腹めがけて殴りかかった。
(こいつ反応できてない、いける!)そう思ったレインだった。しかし、魔族の腹に拳を当てた次の瞬間、攻撃に使用するために魔力で強化したはずの右の手の指が、腕が、あらぬ方向に曲がり血を流していた。
異変を感じすぐさま攻撃を中断し、後ろへと飛び退いた。
「ん?なんだ引いてしまうのか。威勢のいいのが飛び込んできたと思ったんだが、残念だ」
気だるそうな表情をしている魔族は、その表情とは違ってどこか楽しそうに話す。
レインは少し冷静になり、改めて相手を観察して困惑していた。体の大きさは自分よりも一回り大きいぐらいだが、どう見ても周りにいる魔族より弱そうに見える。もっと言えば、ここに来る前に殺した魔族よりも弱そうに見える。それなのに、自分はなぜこの魔族に右肩より先を壊されたのだろうかと。
(まずいな、全くわからない。どうしようかな…。とりあえず会話で情報を引き出してみるか)
「あんた見た目と違って強いんだな。この群れのリーダーか何かか?」
「初対面で見た目をいじるなんて失礼なやつだな。まあいいや、そうだよ今ここにいる奴らの上官、魔王様の側近の一人、ベンド・フレクトだ」
「へー、あんたがあの側近なんだ。側近とやらが実際どのぐらい強いのか試してみたいとは思ってたけど、あんたを殺すのは少し大変そうだな」
まるで殺す事ができるかのような口ぶりで話しているが、全くの嘘である。このベンドと言う魔族が何をしたのか、全くわかっていないためどうすればいいか、内心焦っていた。
「僕を殺せるつもりでいたの?どんな攻撃をされたかもわかっていないのにかい?いいよやってごらんよ、どうせ僕に触れたらおしまいなんだから」
(触れたらおしまい?何かの魔法か、もしくはスキルか…。どっちにしろ、触れたらこっちがやられるってことがわかっただけでも大きい収穫だ。とりあえず距離をとってあの攻撃のたねを明かすか…。いやーそれにしても命がかかった戦闘ってものは、なかなかに悪くないもんだな)
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