一章9話 死への第一歩
今日もいつものようにヴェアと修行を終え、家で二人で食事をしているとドンドンとドアを激しく叩く音が聞こえた。何事かとヴェアが急ぎドアを開けると、そこには村の警備カムの息子のアレスが息を切らせて立っていた。
「村長、魔族の襲撃です。その数目視だけでも100程度、現在おや、カム含めた警備全員でなんとか持ち堪えていますが、どうやら魔王の側近の魔族もいるみたいで…」
「レイン、家を出るんじゃないよ」
アレスが必死に状況の説明をしていた途中だったが、側近が来ていることを知り、場所も聞かずに飛び出していった。ヴェアの大きな声に、一瞬呆けてしまっていたレインは椅子から立ち上がり、自分の震える掌を見つめ覚悟を決める。
「アレスくん、魔族は村のどこから来たの」
「どこって、村の南側からだけど…ってもしかして行くつもりかお前。だめだ、家を出るなって言ってただろ。俺は戻るけどレインは家にいろよ」
そう言うとアレスは、急ぎ村の南へと走り去ってしまった。レインは、アレスが見えなく成るのを確認すると、壁に掛けておいた少し大きめのマントを羽織り、フードを深々と被ることで見た目を誤魔化し、村の南側へと走って行った。
レインが走っていると、少し離れたところに火や土埃が待っているのが見えた。しかしおかしなことに、戦闘音が全く聞こえないのであった。その疑問はすぐに解消された。少し進むと、透明な膜のようなものが貼られていた。どうやらこれは、音と魔力が外側から知覚感知され無くなる結界のようだ。
結界を通り抜けると、外からは聞こえなかった戦闘音がそこらじゅうから聞こえてきた。結界を通り抜けてからは、ゆっくりと身を潜めながら歩みを進めた。そこらじゅうに転がっている、魔族の死体を横目に進んでいると、向こう側から何者かが近づいてくるのを感じて建物の影に隠れ、身を潜めながら目視で確認する。
(相手は魔族三人、僕にやれるか…)
いざ初めての魔族との戦闘を前に、少し怖くなり後退りしてしまいそうになる。ふと以前ヴェアに言われたことを思い出した。修行とは違い本当の実践ではそのほとんどが、お互い殺意を持っての戦闘になる事が多い。そんなとこに初めて身を投じた時、大抵は怖くなってしまう事がほとんどだと。正直僕はその話を聞いた時、僕はきっと大丈夫だろうと、問題なくいつも通りに戦えると思っていた。どうやらとんだ思い上がりだったようだ。
(思ったよりも怖いな、手足震えてるし、勝てるかわからないし、やっぱ家にいようかなー。でもきっといつかは、戦うことになる気がするんだよなー。あー、でもそういえば以前、ヴェアあんなこと言ってたっけな…)
(それは二年前の修行の休憩時間だった。僕は、この世界に魔王に挑んだ様々な種族の強者達や、魔王に付き従う魔族達について書かれた本を読み、実際どのぐらい強かったのか気になり、その時代を生きたヴェアに聞いてみた。
「あー、そういえばそんな本もあったっけね。んー、どのぐらいねー。とりあえず、みんな私よりは弱かったよ」
「いや、ヴェアがどのぐらい強いのか分からないのに、それじゃ分からないよ」
「んー、私の強さか、そうだなー。一対一なら世界最強かな」
「えー、じゃあそんな最強のヴェアと戦ってる僕はどのぐらい強いの?」
「そうだなー、私の二万分の一ってところかな」
途方もない数字を言われ一瞬、嘘なのではないかとも思ったが、ヴェアの真面目な表情を見て事実なのだろうと思い、少し落ち込んだ表情を見せてしまった。
「まぁでも、多分今のレインなら側近クラスの魔族は厳しいけど、それより下の魔族には負ける事はないよ」
「そうなの?じゃあヴェアってどんだけ強いんだよ」
「と言うか、今は修行の時間なんだから、ヴェアじゃなくて先生だろ」
「あはは…」)
「あんな事言ってたけど、実際目の前にするとやっぱ怖いなー」
(よし、最大限逃げる準備をしてやってみるか。ヴェアは僕の方が強いって言ってたし、ものは試しだ)
レインは覚悟を決め、身体中に魔力を巡らせ強化をする。もちろん流しす魔力の量は抑えて、二割程度と言ったところであった。足に少し多めに魔力を巡らせ、目を閉じ深呼吸をした。心を落ち着かせ目を開き敵を見つめ、まるで獲物を狙う獣のように、姿勢を低くし片方の手で地面を掴み、次の瞬間レインは魔族目掛けて一直線に飛び出した。
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