序章
これは僕が勇者と呼ばれるようになるまでに歩んできた道のりを記すものである。
今から千年前、人族と呼ばれる人間と、魔族と呼ばれる種族とが互いに協力し共存していた。魔族とは、姿形は人族とあまり大差ないが、肌の色が赤や紫や緑や黒などの色で、ツノが生えていたり羽がが生えていたりする者たちのことである。
しかし、ある時一人の魔族の子供がこう言い出した。
「ねぇねぇ、なんで魔族と人族は協力して生きているの?」
そう聞かれたその子の父親は不思議そうな顔をして答える。
「何でって、そりぁ昔からそうだったからだよ」
父親がそう答えると、子供も不思議そうな顔をして言った。
「えー、でも人族って僕たち魔族よりもうーんと弱い生物なんでしょ?それなのにどうしてき・ょ・う・り・ょ・く・なんてしてるの?支配してしまった方楽しく暮らせるよ」
そう言うとその子供は魔力弾を近くを通りかかった人族の男に撃ち放った。
魔力弾が男に命中し、人族の男が血を流しながらその場に倒れ込んだ。
「ほら、こんな簡単に殺せてしまうぐらい弱いのだから、魔族と人族が平等に生きる必要なんてないんだよ」
父親は、目の前の恐ろしい光景に呆気にとられていたが、急いで男に駆け寄り魔法で治療をする。
「なっ、なんてことをしたんだ」
しかし、すでに男は息を引き取っていた。
ぞろぞろと魔族、人族が集まりだし騒ぎとなっていた。
集まりだしたのを見計らってか、魔族の子供は集まってきた魔族と人族に向かって笑みを浮かべながら発言した。
「みなさんこんにちは、僕は魔族のアラルと言います。これからは魔族がこの世界を支配していきます」
アラルが周りにそう言うと、周囲がザワザワしだした。
「何馬鹿なことを言っているんだ。お前は今やってはいけないことをしたんだぞ」
父親がアラルの肩を掴みながらそう怒鳴ると、アラルはにこやかに笑う。
「父さん、僕の何倍も生きていながら、こんな簡単なことにも気づけないなんて…、あなたは魔族の失敗作だ」
そう言うと、アラルは小さな手を父親の胸に当て、涙を流しながら続けてこう言った。
「あなたの唯一の功績は、僕と言う最強の魔族を孕ませたことだけです。よくやってくれました」
次の瞬間、父親が内側から膨れ上がり破裂してしまった。辺りに父親の血や臓物が飛び散り悲鳴が上がる。
「さあ魔族の皆さん、その優れた力でここら一帯の人族を皆殺しにしましょう。躊躇う事はありません、所詮この世は弱肉強食、強い魔族が弱い人族をどうしようと、誰が我らを止めれましょうか。今より魔族が支配する時代の始まりです」
普通であれば、みんなでこの子供を罵倒するか袋叩きにでもするであろう場面であったが、この子供の持つスキル【魔を率いる君主】の影響で、街にいた魔族全員が近くにいる人族を手当たり次第に殺し始めた。
ある者はその鋭利な爪や牙で逃げる人族を切り裂き噛みつき咀嚼し喰らう、またある者は生きたまま火を付けもがき苦しむ様を見て笑う、地獄のような光景が広がっていた。
街の人族を皆殺しにし、アラルによって魔族たちは街の広場に集められた。
「よくやった我が同胞達よ、これよりこの街を拠点とし世界を我ら魔族の手で支配してくれようぞ」
アラルが魔族に、無意識にスキルを使い呼びかける。それによりその場にいた魔族全員がけたたましい咆哮や歓声をあげた。
世界が誕生して300年、特異な魔族の少年の手によって、平和だったこの地に争いと言うものが生まれたのであった。そしてその少年は後に魔王アラルと呼ばれ、世界の半分を支配下に収めるのであった。
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